生涯賃金とは?学歴や事業規模の差異や平均額について解説!
はじめに
- 生涯賃金とは新卒就職から定年までに得る賃金の総額
- ライフプランを考える上でも生涯賃金の把握は重要
- 一般的な傾向では事業規模と学歴に比例して賃金は高くなる
- キャリアアップが伴わない転職には賃金低下のリスクがある
- 正規雇用とキャリアアップが生涯賃金を増やす近道
毎日のように物価上昇と賃上げが報じられる昨今、毎月の収支は気にしても、生涯賃金まで意識することは多くないでしょう。しかし生涯賃金はライフプランと密接に関わる重要な要素です。本稿ではこの生涯賃金を統計の数字と合わせて簡単に解説します。
生涯賃金(生涯年収)とは
生涯賃金もしくは生涯年収とは、新卒後の就職から定年まで、文字通り生涯に得る収入の総額です。以下の項目で政府シンクタンクの統計と合わせて、より詳しく解説します。
生涯賃金(生涯年収)の定義と意義
賃金とは使用者が労働者に対して支払う給料や手当、賞与など、主に給与所得者の対価です。年収もほぼ同じ意味ですが、対価により広い意味があり、個人事業主なども含みます。また生涯が指す期間は新卒就職から60歳で定年するまでの、いわゆる現役期間を指します。生涯賃金を考える際に混同しやすい言葉を下記の表にまとめました。
混同しやすい言葉の一覧 | |
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収入 | 得られる対価や売上のすべてであり、仕入れや経費を差し引く前の金額のこと。会社員など給与を受ける人の給与収入と、事業による売上や報酬による事業収入がある |
賃金 | 業主が労働者に支払う対価。賃金のほか給料、手当、賞与などの言葉があり、これらの総称を給与という |
所得 | 収入から控除や経費を差し引いた金額のこと。給与収入から所得控除を差し引いた給与所得と、事業収入から経費を差し引いた事業所得がある |
手取り | 賃金や給与から税金や社会保険など諸々の控除を差し引いた金額。収入のうち実際に手に取れる金額。差引支給額 |
月収 | 1か月分の賃金(収入) |
年収 | 1年間の賃金(収入)の合計 |
生涯賃金 (生涯年収) | 就職から定年退職までに得られる賃金(収入)の総額 |
なぜ生涯賃金を知る必要があるのか
平均寿命が延長傾向にある昨今、生涯賃金はライフプランと直結する重要な情報です。これを先に知ることで生活や支出を見直し、資産形成も計画できるでしょう。現在は多様な働き方があるため人によって生涯賃金は異なりますが、独立行政法人 労働政策研究・研修機構の統計から、その平均値がわかります。
正社員の生涯賃金推移
(60歳まで、退職金を含めない、同一企業継続就業とは限らない)
男性 | |||||
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調査年 | 高校卒 | 専門学校卒 | 高専・短大卒 | 大学卒 | 大学院卒 |
2020 | 1億9950万円 | 1億9430万円 | 2億2800万円 | 2億4750万円 | 3億円 |
2021 | 2億120万円 | 1億9410万円 | 2億2960万円 | 2億4370万円 | 2億9640万円 |
2022 | 2億300万円 | 1億9780万円 | 2億2840万円 | 2億4740万円 | 3億30万円 |
女性 | |||||
---|---|---|---|---|---|
調査年 | 高校卒 | 専門学校卒 | 高専・短大卒 | 大学卒 | 大学院卒 |
2020 | 1億4490万円 | 1億6720万円 | 1億6680万円 | 1億9880万円 | 2億5810万円 |
2021 | 1億4650万円 | 1億6720万円 | 1億6960万円 | 1億9780万円 | 2億5030万円 |
2022 | 1億4920万円 | 1億7080万円 | 1億7230万円 | 1億9800万円 | 2億5050万円 |
参照|労働政策研究・研修機構 ユースフル労働統計2023 P308(表21-1)
正社員の平均生涯賃金
人によって働く期間の違いはありますが、新卒からフルタイムの正社員として転職・退職せずに働き続ける場合、学歴別の平均生涯賃金では男女とも高学歴の方が高い傾向にあります。
正社員の平均生涯賃金 2022年
(60歳まで、転職なし、退職金を含めない)
学歴 | |||||
---|---|---|---|---|---|
性別 | 高校卒 | 専門学校卒 | 高専・短大卒 | 大学卒 | 大学院卒 |
男性 | 2億4010万円 | 2億2240万円 | 2億5560万円 | 2億7330万円 | 3億1230万円 |
女性 | 1億7900万円 | 1億8780万円 | 1億9880万円 | 2億2780万円 | 2億6420万円 |
参照|労働政策研究・研修機構 ユースフル労働統計2023 P311(表21-3)
非正規の平均生涯賃金
前の項目は正規雇用で転職・退職がない場合の平均生涯賃金でしたが、これに対してフルタイムの非正規雇用で働き続けた場合、生涯賃金がどうなるかを下記の表にまとめました。
非正規で働き続けた場合の平均生涯賃金 2020年
(60歳まで、退職金を含めない)
学歴 | ||||
---|---|---|---|---|
性別 | 中学卒 | 高校卒 | 高専・短大卒 | 大学・大学院卒 |
男性 | 1億3000万円 | 1億3000万円 | 1億3000万円 | 1億6000万円 |
女性 | 1億1000万円 | 1億円 | 1億1000万円 | 1億2000万円 |
参照|労働政策研究・研修機構 ユースフル労働統計2022 P336,337(図21-5)※
※2023年版に非正規雇用の生涯賃金に関する情報がないため2022年版を参照しています
非正規の場合も学歴に比例して平均生涯賃金が高いとわかりますが、正規雇用と比べて大きく金額が下がることもわかります。
事業規模や転職の影響
学歴別の平均生涯賃金では大学・大学院卒が最も高くなりやすいことがわかりました。それでは企業の事業規模によってはどの程度の違いがあるのでしょうか。
事業規模による違い
学歴や性別によっても平均生涯賃金には格差がありました。大企業や中小企業など、事業規模によってどれくらいの差があるのかを、下記の表にまとめました。
同一企業で勤め上げた場合の平均生涯賃金 2022年
(60歳まで、退職金を含めない)
男性 | |||
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事業規模 | |||
学歴 | 10-99人 | 100-999人 | 1,000人以上 |
高校卒 | 2億6540万円 | 2億2970万円 | 2億350万円 |
専門学校卒 | 2億4320万円 | 2億2080万円 | 2億140万円 |
高専・短大卒 | 2億8790万円 | 2億3270万円 | 2億490万円 |
大学卒 | 3億440万円 | 2億4830万円 | 2億1530万円 |
大学院卒 | 3億2760万円 | 2億7640万円 | 2億5690万円 |
女性 | |||
---|---|---|---|
事業規模 | |||
学歴 | 10-99人 | 100-999人 | 1,000人以上 |
高校卒 | 1億9750万円 | 1億7220万円 | 1億5160万円 |
専門学校卒 | 2億380万円 | 1億8800万円 | 1億6610万円 |
高専・短大卒 | 1億2390万円 | 1億9280万円 | 1億7980万円 |
大学卒 | 2億4830万円 | 2億1210万円 | 1億9580万円 |
大学院卒 | 2億8460万円 | 2億4050万円 | 2億80万円 |
参照|労働政策研究・研修機構 ユースフル労働統計2023 P311(表21-3)
どの学歴においても大企業の平均生涯賃金が最も高いとわかります。
転職による影響
転職による賃金の増減はありえますが、退職金は勤続年数が長いほど高額になる傾向にあるため、転職で勤続年数が短くなると受け取れる金額も減少すると考えられます。転職なしの場合に比べて1度の転職を挟んで定年を迎えた場合、生涯賃金がどの程度低下するかを計算したものが下記の表です。
転職による生涯賃金減少率
(単位は%、△はマイナスの意味)
年 | 転職時の年齢 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
転職なし | 25歳 | 30歳 | 35歳 | 40歳 | 45歳 | 50歳 | 55歳 | |
1989 | 0.0 | △4.4 | △10.2 | △14.5 | △16.4 | △16.2 | △13.5 | △8.6 |
1993 | 0.0 | △3.1 | △7.7 | △11.5 | △13.1 | △13.0 | △10.7 | △6.5 |
1997 | 0.0 | △2.6 | △6.4 | △9.7 | △11.4 | △11.2 | △9.2 | △5.5 |
1999 | 0.0 | △2.7 | △6.3 | △9.3 | △10.8 | △10.7 | △8.8 | △5.5 |
2001 | 0.0 | △3.0 | △7.0 | △10.6 | △12.2 | △12.1 | △10.0 | △6.2 |
2003 | 0.0 | △4.0 | △8.9 | △13.2 | △14.9 | △14.7 | △12.2 | △7.6 |
2005 | 0.0 | △3.0 | △7.0 | △10.6 | △12.2 | △12.1 | △10.0 | △6.2 |
2007 | 0.0 | △2.8 | △6.7 | △9.8 | △10.9 | △10.9 | △9.1 | △5.7 |
2009 | 0.0 | △5.7 | △13.4 | △18.7 | △21.1 | △19.6 | △17.4 | △10.8 |
2011 | 0.0 | △2.4 | △5.7 | △8.3 | △9.5 | △9.5 | △7.9 | △5.0 |
2013 | 0.0 | △2.4 | △5.9 | △8.5 | △9.9 | △9.7 | △8.1 | △5.1 |
2015 | 0.0 | △3.6 | △8.3 | △11.4 | △12.8 | △12.7 | △10.7 | △7.0 |
2017 | 0.0 | △2.4 | △6.3 | △8.6 | △9.8 | △9.8 | △8.2 | △5.3 |
2019 | 0.0 | △1.0 | △3.3 | △4.9 | △5.6 | △5.7 | △4.7 | △2.8 |
引用|労働政策研究・研修機構 ユースフル労働統計2022 P276(表17-3)※
※2023年版に転職による生涯賃金減少率の記載がないため2022年版から引用しています
転職が生涯賃金減少に影響すること、特に40~45歳時での転職による減少率が最も大きいとわかります。
学歴と事業規模の差異
前出の項目で企業規模が同条件であれば高学歴である方が、生涯賃金が高くなるとわかりました。ここでは学歴と事業規模別の生涯賃金について比較・補足します。
大卒・大学院卒と高卒の生涯賃金比較
それでは大卒・大学院卒で中小企業に就職する場合と高卒で大企業に就職する場合では、どの程度の差異があるのでしょうか。下記の表であらためて比較します。
大卒・大学院卒の中小企業就職と高卒の大企業就職
男性 | |
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大学院卒で中小企業就職の場合 | 平均生涯賃金 2億5690万円 |
大卒で中小企業へ就職の場合 | 平均生涯賃金 2億1530万円 |
高卒で大企業に就職する場合 | 平均生涯賃金 2億6540万円 |
女性 | |
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大学院卒で中小企業就職の場合 | 平均生涯賃金 2億80万円 |
大卒で中小企業へ就職の場合 | 平均生涯賃金 1億9580万円 |
高卒で大企業に就職する場合 | 平均生涯賃金 1億9750万円 |
参照|労働政策研究・研修機構 ユースフル労働統計2023 P311(表21-3)
事業規模は学歴以上に生涯賃金に影響することから、大企業の賃金が高水準であることもわかります。
生涯賃金を増やす方法
これまでに生涯賃金について解説してきました。この項目では賃金アップのためにできる取り組みについて解説します。
非正規なら正規雇用を目指す
現在が非正規雇用であれば、正規雇用を目指すことが賃金アップへの近道といえます。正規雇用であれば昇給や賞与のほか、社会保険による補償制度も伴います。また退職金制度を持つ企業であれば勤続年数によって得られる金額が変わりますので、正社員としての就職は早ければ早いほど生涯賃金のアップにつながるでしょう。
キャリアアップ転職を視野に入れる
現在の環境では賃金が低い、または賃金アップが望めないと感じているのであれば、キャリアアップが伴う転職も有効な手段の1つです。同規模以下の企業では賃金低下のリスクもありますが、より好条件の転職に挑戦できるのであれば、実力次第で賃金アップを望むことも可能です。
資格取得でスキルアップを証明する
資格によってスキルアップを証明することも、賃金アップへの取り組みといえます。資格は学歴とは別の指標で地位や身分、またはその資格を得るのに必要な学習成果やスキルを証明するものです。手当が認められる資格や、勤務先の基幹業務に直結する資格であれば活躍の場も広がり、賃金アップも期待できるでしょう。
まとめ
生涯賃金は新卒就職から定年までの総収入額です。本稿では事業規模や学歴による影響、賃金低下のリスクや増やし方を統計と合わせて解説しました。生涯の収入ともなると高額でイメージするのは難しいかもしれませんが、ライフプランや老後を考える上でも重要な情報です。
さまざまな働き方がある昨今、収入やライフプランは人によってさまざまですが、生涯賃金の平均値はそこに筋道を付ける目安にできます。これらの情報からぜひ生涯賃金を身近な知識にしてください。