労働分配率とは?志望企業選びに活用できる経済の知識を解説
はじめに
- 労働分配率とは企業の付加価値のうち人件費に充てられる割合を示したもの
- 労働分配率を見ることで企業の労働環境や待遇などについて予測が可能
- 労働分配率は高すぎても低すぎても企業にとって好ましいとはいえない
- 日本の大企業では労働分配率が低い傾向にあり中小企業では高い傾向にある
- 労働分配率などのデータを理解し広い視野をもって志望企業を選択しよう
就職活動において志望企業を検討する際は、社風や福利厚生など、あらゆる要素を視野に入れて考えるものです。この記事では、そうした要素のひとつ「給与」に関わりの深い指標、「労働分配率」について解説します。労働分配率を通して日本企業の現状を把握し、企業選びやキャリアプラン形成に新たな視点を加えてみましょう。
労働分配率の基礎知識
まずは、労働分配率にまつわる基本的な情報についてお伝えします。
労働分配率とは
労働分配率とは、企業が生み出した「付加価値(付加価値額)」のうち、どのくらいが人件費として分配されているかをパーセンテージで示したものです。企業の経済的な健全性や社会の公正性を評価する指標として用いられます。
以下が労働分配率を求める計算式です。
- 労働分配率(%)=人件費÷付加価値×100
労働分配率が高いということは、企業が従業員の給与などに多くの金額を回していることになりますので、従業員の満足度が高く保たれている可能性があります。一見すると、労働分配率は高いほどいいように思えますが、そう単純なものではありません。詳細は後述しますが、労働分配率は高すぎず低すぎず、適正な水準に保たれていることが重要です。
付加価値とは
労働分配率を求める計算式のうち「付加価値」とは、企業が商品やサービスを生み出す過程で生じる価値のことです。企業の経済的な活力を示す指標であり、これが高いほど、企業は高い利益を上げているといえます。求め方には「控除法」と「加算法」があり、一般的に控除法は中小企業向け、加算法は大企業向けとされています。
控除法は企業の売上高から「外部購入価格」を差し引くものです。外部購入価格とは「企業の活動ではなく、外部から購入した価格」で、原材料費・水道光熱費・外注加工費・運送費などが該当します。
加算法は、製造過程を経ることで付加価値が積み上がる形の計算方法で、人件費や税金、賃貸料などの経費を当期純利益に足すことで付加価値を求めます。
人件費とは
労働分配率を求める計算式のうち「人件費」とは、従業員に対して支払われる給与や賞与、福利厚生費などの合計金額のことです。労働分配率を計算する際は、人件費がどれだけ付加価値に占めるかを見ることになります。
人件費に該当するものとしては、おもに以下が挙げられます。
- 給与
- 賞与
- 退職金
- 役員報酬
- アルバイト/パートの給与
- 社会保険料
- 福利厚生費
- 研修教育費
人件費に含まれる給与や賞与、社会保険料などの詳細は、【新卒の初任給】 給料の平均や基本給と手取りの違いは?で解説しています。あわせて参考にしてみてください。
労働分配率の読み解き方
ここからは、労働分配率によって何がわかるのか、その読み解き方を解説します。
労働分配率で何がわかる?
労働分配率は企業の経済状況を理解するための重要な指標です。企業がどれだけの付加価値を労働者に還元しているかを見ることで、企業の労働環境や待遇、働きがいについてある程度予測を立てることが可能です。しかし先述の通り、労働分配率は高ければいいというものではありません。以下より、労働分配率が高い状態と低い状態について考えていきます。
労働分配率が高い状態
労働分配率が高い企業、すなわち付加価値に対する従業員報酬の割合が高い企業は、労働条件が比較的良好とされます。従業員の満足度やモチベーションが高く保たれ、将来的には企業自体の成長や収益の向上にもつながるかもしれません。また、労働分配率の高さは、離職率の減少や優秀な人材の確保にも寄与するでしょう。
その反面、人件費の割合が高いということは、設備投資など人材以外の要素に費用が回っていないとも取れます。結果として生産性が下がり、利益の確保が難しくなっていることもあり得ます。
労働分配率が低い状態
一方、労働分配率が低い企業は、経営に余裕があるものの、人件費が少ないために従業員のモチベーションが低下しているかもしれません。労働分配率が低い企業とは、付加価値のうち労働者への報酬に回す割合が少ない企業を指します。これは企業が利益を重視し、コスト削減による効率化を目指す傾向がある可能性を示しています。
ただし、労働分配率が低いからといって必ずしも労働環境がよくないとは限りません。人件費が低いぶん、設備投資や研究開発に費用を充てているケースも考えられます。
労働分配率に見る日本企業の現状
ここからは、日本企業における労働分配率の現状を実際に見てみましょう。
企業規模別の労働分配率
上記は中小企業庁による、労働分配率の推移を企業規模別に示したグラフです。これを見ると、中小企業では労働分配率が長年にわたって高止まりしており、また大企業ほど低下する傾向がないことがわかります。対して、大企業の労働分配率は中小企業と比べると低い水準で推移しています。
大企業と労働分配率の関係
日本の大企業の労働分配率は比較的低い傾向にあります。大企業では株を保有している株主への配当や、設備投資・研究開発などに多くの資源を投じる必要があることが理由のひとつです。
さらに昨今のコロナ禍を経て、「内部留保」も増加傾向にあります。内部留保とは、企業の利益から税金や配当などを差し引いたもので、社内に貯めておくお金のことです。今後、コロナ禍のような事態がまた起きないとは限りません。そのため、大企業では内部留保の割合が増え、労働者の賃金に回される余裕が少なくなっているのです。とはいえ、大企業の賃上げ率は2023年に高い水準となり、これからも給与アップが進む可能性はあるでしょう。
中小企業と労働分配率の関係
中小企業の労働分配率は業種や経営状況により変動があるものの、大企業と比較すると高い傾向にあります。そもそも中小企業では分母となる利益の水準が低いことと、従業員への報酬によって人材の確保・育成に力を入れる傾向が強いためです。
中小企業では経営資源が限られているため、利益が伸びても直接的な賃上げにつながるとは限らないとも考えられます。ただし、社員一人ひとりの企業への貢献度が高いため、業績が良好な場合には、大企業以上に高い労働分配率を示すこともあります。
まとめ
労働分配率は高くても低くてもいいわけではなく、また企業の経済状況をひも解くには規模・業種をはじめ、さまざまな要素を考慮しなければなりません。大企業だから安泰ではなく、中小でも元気な企業は多く存在します。企業研究の際には表面にとらわれず、広い視野をもって行うことが大切なのです。
労働分配率の背景にある、企業の経営方針や従業員への取り組みを読み取ることで、自身の働きたい環境や求める待遇が見えてきます。データへの理解を深め、経済の流れを把握し、就活に活かしてみてはいかがでしょうか。