シェアサイクルのメリットと課題、今後はどうなる?
はじめに
近年、「シェアサイクル」と呼ばれるサービスの普及・拡大が進められています。シェアサイクルは私たちの生活にどう関わり、どのように使いこなしていけばよいのでしょうか。この記事では、シェアサイクルの基本的な使い方をはじめ、利用の際の注意点、今後の発展に向けた取り組みなどについて解説します。
シェアサイクルとは
シェアサイクルとは、街中にある拠点に設置された自転車を、不特定多数の他者と共有(シェア)しながら利用できるレンタルサービスです。利用登録や決済をスマートフォンで行い、自分の好きなタイミングや時間で自転車を借りることができます。その手軽さを活かし、通勤の間だけの移動や、観光スポットめぐりなど、さまざまな用途に利用が進んでいます。
サイクルポートについて
シェアサイクルで使用する自転車は、「サイクルポート」と呼ばれる無人の駐輪場に設置されています。自転車を借り、利用が終わったあとは移動先の別のサイクルポートに返却できることが大きな特徴です。サイクルポートの場所はスマートフォンで検索できるほか、営業時間の制限がなく、24時間いつでも利用ができます。
IoTを活用したセキュリティ
シェアサイクルで利用される自転車には、さまざまなIoT技術が活用されています。たとえば、施錠や開錠は「スマートロック」によって、スマートフォンで行うことが可能です。また、走行距離を記録できるほか、GPS機能によって駐輪場所を把握できるなど、盗難や不正の防止につながるセキュリティ対策が行われています。
シェアサイクルでも利用されるIoT技術についての詳細は、IoTとは?なにかを分かりやすく解説を参考にしてみてください。
レンタサイクルとの違いと比較
シェアサイクルと名前が似ているサービスに「レンタサイクル」があります。シェアサイクルとの大きな違いは返却場所で、レンタサイクルは自転車を借りた店舗に返さなくてはいけませんが、シェアサイクルは複数あるサイクルポートのいずれに返却してもかまいません。
また、レンタサイクルは店舗に窓口スタッフなどがいるのに対し、シェアサイクルは無人のサービスになります。そのため、レンタサイクルは困りごとがあったときに有人のサポートを受けることができ、決済も対面で行うため現金の使用が可能です。一方、シェアサイクルはスマートフォンで決済を行うため、基本的に現金の使用はできませんが、利用料金は比較的安いのが特徴です。
どこで利用できる? 現在の普及状況
国土交通省の資料によると、シェアサイクルの本格導入都市数は令和2年度末時点で170都市にのぼり、現在も増加傾向にあります。東京・大阪・京都・名古屋など、都市部を中心に普及が進められており、利用できる場所は増えつつあるようです。
サイクルポートが設置されている場所は、路上や公園内などのほか、昨今では観光施設内や大学構内、コンビニエンスストアの敷地内に設置されていることもあります。
参考:国土交通省|都市交通の中でのシェアサイクルのこれから~確定版~
シェアサイクルの使い方
ここでは、実際にシェアサイクルを利用する際の借り方・返し方を説明します。
初めてシェアサイクルを使う場合は、シェアサイクルを運営する各事業者が展開するスマホアプリを選んでダウンロードし、個人情報や決済情報の入力などの新規会員登録を行います。その後、近隣のサイクルポートを検索し、使用する自転車を予約して現地に移動しましょう。
サイクルポートに到着後は、ICカードやスマホで自転車のロックを解除し、利用を開始します。目的地に到着したら、近くのサイクルポートに自転車を返却し、ロックをかけて利用終了です。到着前に目的地近くのサイクルポートを検索しておくと、返却がスムーズに行えます。
支払い方法は? 料金はいくらかかる?
シェアサイクルの利用料金は、クレジットカードや電子マネーなどのキャッシュレス決済で支払う場合がほとんどで、スマホ上で手続きが完結します。そのため、サービスによっては現金が使えないことがありますので、注意しましょう。
値段はサービス事業者やエリア、利用プランによって異なります。たとえばドコモのバイクシェアサービスの場合は東京広域1回のみの利用で30分ごとに165円です。HELLO CYCLING(ハローサイクリング)の場合は東京エリア1回30分で130円、延長15分ごとに100円となっています(2023年1月時点の料金です)。
シェアサイクルのメリットと活用方法
スマホひとつでいつでもどこでも手軽に利用できるシェアサイクルには、シェアリングエコノミーならでは、自転車ならではのさまざまな利点があります。ここからはシェアサイクルのメリットと、それを踏まえた活用方法を紹介します。
シェアサイクルをはじめとした「シェアリングエコノミー」と呼ばれるビジネスモデルの詳細については、シェアリングエコノミーとは? 5つの領域解説から注意点と将来性までを参考にしてみてください。
コストが少なく手軽に利用できる
シェアサイクルは比較的利用料金が安いほか、自ら自転車を購入する場合の管理・メンテナンスの手間やコストがかかりません。一般財団法人自転車産業振興協会の調査においても、シェアサイクルを利用する理由は「自分で自転車を持たなくて良いから(49.5%)」が最も多いことがわかります。
また、自宅や駅前などの駐輪スペースの必要がなく、手軽に利用ができることもメリットのひとつです。シェアサイクルの利用によって、放置自転車や駐輪スペース以外への違法駐輪など、自転車にまつわる社会問題の解決につながるかもしれません。
参考:一般財団法人自転車産業振興協会|2020年度シェアサイクル利用実態調査報告書(概要版)
ちょっとした外出から観光まで活用可能
通勤をはじめとする普段の移動や、歩くには遠いちょっとした距離の買い物など、シェアサイクルの活用シーンは幅広くあります。自転車を利用することで、バスや電車といった公共交通機関の混雑・遅延、あるいは自家用車の渋滞回避にも有効です。
都市部だけでなく、観光地でもシェアサイクルの普及は進んでいます。自転車であれば徒歩よりも効率よく、特定の範囲内に点在する観光地を回れるうえ、バスやタクシーよりも気軽に、道中の店舗などにとどまることができます。こうしたフットワークの軽さがシェアサイクルの魅力といえるでしょう。
健康維持・環境への配慮にもつながる
シェアサイクルの利用を健康の維持・増進に役立てることもできます。先述した通勤や買い物など、日常生活の移動を自転車に置き換えることによって、運動不足の解消や、昨今のコロナ禍により聞かれるようになった「三密」を避けることが可能です。
また、シェアサイクルに多く利用される電動アシスト付き自転車は、CO2を排出しません。国土交通省の資料によると、シェアサイクルの導入により、東京都中央区では3年間で合計41万kgのCO2を削減したとのデータがあります。環境への悪影響が少ない点も、シェアサイクルの大きな特長です。
参考:国土交通省|シェアサイクルの公共的な交通としての在り方について
シェアサイクルのデメリットと課題
シェアサイクルにはメリットと同様に、シェアリングエコノミーであり、自転車であるがゆえのデメリットも存在します。ここからは、シェアサイクルを実際に利用するときに注意しておきたい点を解説するとともに、今後シェアサイクルがより普及していくうえでの課題を、自転車利用に関する法令を交えて解説します。
借りるまで自転車の状態が不明
シェアサイクルで使用する自転車のメンテナンスやバッテリー交換は、専門の事業者によって都度行われています。また、一部地域ではその場で自転車の充電ができるサイクルポートもあります。
とはいえ、シェアサイクルは不特定多数の人が利用することに加えて、基本的には無人で管理されています。そのため、利用したい自転車に不具合や故障が見られたり、充電が十分でなかったりすることもあるようです。そうした自転車の詳細な状況を事前に把握することは難しく、利用するうえでの懸念点といえます。
借りられない・返す場所がないことがある
休日や天候に恵まれた日など、利用が集中する時期や時間帯によっては、サイクルポートの自転車がすべて借りられてしまい、利用できないことがあります。逆に、ポート内が満車になってしまうと、その場所に返却ができないこともあります。
また、増加傾向にあるとはいえ、シェアサイクルはまだ十分に普及しているとは言いにくく、場所や地方によってはサイクルポート自体が見つからない可能性にも注意が必要です。返却場所を探す間も利用料金は加算されるため、事前にポートの位置をチェックしておくことが望ましいです。
利用マナーにまつわる課題
シェアサイクルの普及が進むにつれ、利用マナーにまつわる問題も増加しています。駅周辺など利用者の多いサイクルポートを中心に、ポートの容量を超えた駐輪によって、歩道に自転車がはみ出して交通の妨げになる事例が発生しています。自転車が乱雑に置かれていたり、駐輪中の自転車のカゴにごみが投棄されたりするなどの問題もあるようです。
今後、シェアサイクルがより一般的な交通機関として発展するためには、これらの課題への事業者・自治体側の対策に加え、利用者側のマナーを向上させることが必要になります。
自転車に関する法令の周知
シェアサイクルの普及・発展にあたっては、自転車に関する法令の周知・遵守も課題のひとつです。
たとえば、飲酒後は車に乗れないからと、帰宅の足としてシェアサイクルを利用する事例があるようです。しかし、自転車は道路交通法上「軽車両」となっていますので、飲酒運転などの違反を行うと罰則が科せられる場合があります。シェアサイクルを利用する際は、「自転車安全利用五則」をはじめとするルールを確認し、十分な安全対策を心がけることが大切です。
参考:警視庁|自転車安全利用五則
これからのシェアサイクル・取り組み事例
まだ新しく、発展途上の交通手段であるシェアサイクルには、さまざまな活用方法が考えられます。そうしたシェアサイクルの可能性を活かし、これからの社会や暮らしを見据えた取り組みが日本各地で進行しています。最後に、シェアサイクルにまつわる新たな取り組みについて、具体的な事例をまじえて紹介していきましょう。
災害時のシェアサイクル利用
2021年10月7日に発生した地震の際、東京都心ではシェアサイクルの利用が急増しました。鉄道各線の運転見合わせに伴い、公共交通機関に代わる帰宅手段として注目を集めたのです。
ただ、災害時は道路の亀裂や建物の倒壊など、自転車での移動に危険が伴う可能性があります。また、住宅街エリアのサイクルポートに自転車が集中する懸念もあるため、各シェアサイクル事業者も災害時の積極的な利用については呼びかけを行っていません。
一方で、シェアサイクルの強みを活かした災害対応の取り組みも進んでいます。一部自治体では、職員が災害時の現地調査用としてシェアサイクルを利用できるICカードを配布したほか、西日本豪雨の際には避難者の緊急移動用としてシェアサイクルの無料提供が行われた例もあります。
集合住宅向けサービスの検証
2022年1月21日、パナソニックサイクルテック株式会社は、集合住宅向けのIoT電動アシスト付き自転車のシェアリングサービスについて、実証実験を実施すると発表しました。
利便性や快適性から電動アシスト付き自転車のニーズは高まっているものの、アパートやマンションなどの集合住宅では、駐輪スペースに限りがあるなどの理由で入居者が自転車を所有できないケースがあります。そうした集合住宅を対象に、買い物などでシェアサイクルを利用してもらう取り組みが進められています。
今後に向けては、シェアサイクル導入によって駅から遠い物件の価値が向上する可能性や、自転車のバッテリーを、物件の非常用電源として利用する仕組みの検証を行っていくことが検討されているようです。
再生可能エネルギーの活用
シナネンモビリティPLUS株式会社が運営するシェアサイクルサービス「ダイチャリ」では、自転車のメンテナンス・充電に使用する電力に実質再生可能エネルギー100%の電気を採用しています。このほかにも、各事業者の間で、シェアサイクルに再生可能エネルギーを利用し、SDGsに寄与する取り組みが広がっています。
株式会社ドコモ・バイクシェアでは、路面に直接設置できる太陽光パネルを長野県上田市のサイクルポートに設置しました。OpenStreet株式会社はENEOSホールディングス・琉球大学とともに、大学敷地内とその周辺の混雑緩和の研究として、太陽光発電を利用したシェアサービスの実証実験を行っています。
太陽光をはじめとした再生可能エネルギーについての詳細は、再生可能エネルギーとは?メリットはあるのに普及しない理由も解説! をご覧ください。
まとめ
手軽に利用でき、渋滞などの交通問題解決やエコの観点からも注目を集めているシェアサイクルですが、いまだ多くの課題があることも事実です。しかし、その解決に向けた動きも含め、これからますます普及・発展していくサービスであると考えられます。
まだ利用したことがないという方は、日常生活でのちょっとした移動方法として、あるいはレジャーの一環として、シェアサイクルの活用を検討してみてはいかがでしょうか。
最後のチェックポイント
- シェアサイクルは自転車を不特定多数の他者と共有できるレンタルサービス
- 決済やロックをスマホひとつで行い、好きな時間で利用し移動先に返却できる
- 普段の移動や観光など、手軽でエコに利用できるのがシェアサイクルの魅力
- メンテナンスやポート不足、マナー問題など、解決すべき課題はまだ多くある
- 災害時の活用や再生可能エネルギーの利用など、新たな取り組みが進んでいる