自己実現とは?マズローの欲求5段階説の活用法
はじめに
「自己実現」という言葉をご存じでしょうか。自身の成長や、成功を意味していると考える人も多いかもしれません。自己実現という言葉はとかく誤解されやすく、正しい意味を理解できないまま使用されるケースもあるようです。
自己実現の類義語には「自我実現」という言葉があります。類義語からも見えてくる「自己実現」の本来の意味や、自己実現をめざすためのポイントを紹介します。
自己実現とは?意味から知ろう
「自己実現」の意味を考えたとき、語感から自己の成長や目標を達成することを意味していると考えられがちです。「実現」という言葉が入っていることで、発展的な言葉として捉えられるのかもしれません。
自己実現をわかりやすく説明すると、「ありのままの状態であること」です。自己が実現させたい未来について指すのではなく、自分らしい生き方を指していると考えてください。人間本来のありのままの姿になり、自分のなかのイヤな部分や抱えているコンプレックスを認め・受け入れながら生きることこそが「自己実現」です。
心理学者マズローの欲求5段階説(自己実現理論)とは
アメリカの心理学者「アブラハム・マズロー(Abraham Maslow)」が提唱する「欲求5段解説」と呼ばれる自己実現理論を知ることで「自己実現とはなにか」が見えてくるでしょう。
マズローの心理学理論である「自己実現理論」によると、人には5段階の欲求があると言われています。5段階の欲求とは「生理的欲求」や「安全の欲求」「社会的欲求」「承認の欲求」そして「自己実現の欲求」と内容が段階的に発展していきます。
マズローの自己実現理論で提唱されている「欲求5段階説(自己実現理論)」は、心理学のみならず経営学や看護学などさまざまな分野でも提唱され活用されている理論です。その内容を知ることで自分のモチベーションを高めたり、仕事に生かしたりとさまざまな活用があります。5段階の欲求について詳しく紹介しましょう。
1.生理的欲求
マズローの自己実現理論の5段階欲求を形成されるピラミッドの最下部に「生理的欲求」があります。これは人間が必要とする欲求のなかで、生命活動を維持するために最低限必要となる欲求です。たとえば「食欲」「睡眠欲」「性欲」からなる3大欲求や、呼吸や排せつなど、生命維持に必要なすべての生理的要求が該当します。
ピラミッドの最下層ではありますが、「生理的欲求」はピラミッドを支える土台の部分を担います。すべての欲求の中で、必ず満たすべき部分であると考えられるでしょう。
2.安全の欲求
「生理的欲求」が満たされると次は「安全の欲求」が求められます。安全の欲求とは、心身ともに安全であること、かつ経済的にも安定している状態を求めることです。生活の快適さは安全の度合いに左右されます。
経済的に不安定で明日をもわからない日々を送っている。病気がちで思うように動けない。一歩足を踏み出しただけで生活が脅かされるような不安のある生活では、安心してすごすことは難しいでしょう。このような不安定な状態から抜け出し、できるだけ秩序のある安全で安心できる環境を求めることが安全の欲求です。
3.社会的欲求
最低限の生命維持活動を確保し、安心して安全に暮らせる環境が手に入ると、次は誰かとかかわりたいと感じはじめ、コミュニティに属したいという欲求が現れます。このようなコミュニティに所属することで安心感を得たいと考える欲求を「社会的欲求」と呼びます。
人は孤独のなかでは生きてはいけないのです。寂しさや孤独を解消するために、心のよりどころや人の温かさを求めたり、誰かに求められたいと感じる欲求が湧いてくるものです。どこかに属することで誰かに自分の話を聞いてもらえる。自分を受け入れてもらえるなど、物質的な欲求だけでは満たされない心の隙間を、他者との親密な関わりで満たしていくことが「社会的欲求」です。
4.承認の欲求
社会の一員として満たされると、次は、自分の能力を認められたい、高い評価が欲しいと望むようになります。たとえば仕事で評価をされたい、一目置かれる存在になりたいやSNSで「いいね」をもらいたいなど、これらすべて「承認の欲求」のあらわれでしょう。
承認の欲求は2つに分類されます。1つ目は他人から注目をされたい・称賛されたいと求める「低位の承認欲求」。2つ目は他人からではなく自分を自分で承認したいと願う「高位の承認欲求」です。段階を経て変化することもあれば、性格や環境からどちらかに偏ることもあるでしょう。
5.自己実現の欲求
自己実現の欲求とは、他の誰にも成し遂げることができないようなことを、自分が成し遂げたいという思いや、自分らしくありのままに生きていきたいという欲求を意味します。
「独立したい」とか「田舎暮らしがしたい」とか「モデルになりたい」など、なんらかの夢(理想的自己イメージ)をもっている人もいるでしょう。しかし実際は夢と現実が一致しないはがゆさに、思い悩み満足できないケースも珍しくありません。欲求を満たすためには、社会的な成功だけではなく、思い描く理想的自己イメージとの同一化を目指すことが自己実現として重要な鍵を握ります。
自己実現するための考え方の例
自己実現をするための考え方にはいくつかの方法があります。ここでは実践しやすい「夢の実現で考える」と「社会貢献で考える」といった2つの例を紹介します。まずは心理学者マズローによる自己実現理論から、自分が今どの段階の欲求を欲しているかを把握しましょう。その上で、今の自分にあった自己実現に向けた新たなステップを踏み出してみてください。
夢の実現で考えてみよう
いつか海外への移住生活を夢(理想的自己イメージ)にもつA子さんを例にあげてみましょう。自己実現をするためには、移住先で必須となる語学の勉強が不可欠になります。夢の実現までを5段階の欲求に照らし合わせ、以下のように考えてみてはいかがでしょう。
- 生理的欲求
好きな海外の空気を吸い、おいしい地元の料理を食べたい - 安全の欲求
移住先で安定した生活をしたい - 社会的欲求
外国人のコミュニティに所属して、友だちを作りたい - 承認欲求
英会話も堪能になり、家族に移住を理解してほしい - 自己実現欲求
外国でも問題なく生活できる語学スキルを身に着けた自分になり、移住したい
このように、自分にあった内容で5段階欲求へあてはめてみるといいでしょう。
社会貢献で考えてみよう
マズローは欲求5段階説を提唱した数年後、もう1段階の階層となる「自己超越の欲求」を加えました。
自分以外の誰かのためや社会のためにできることなど、貢献思考をもつことで自己実現に近づいていくと考え、自己超越の欲求の必要性を提唱しています。
自己超越の欲求を満たす社会貢献の成功モデルを紹介しましょう。Bさんは電車で移動中、妊婦さんが乗ってきたので席を譲りました。このようなケースも十分な自己実現+社会貢献の成功モデルです。社会貢献というとボランティアやNPO団体への参加などを意識するかもしれませんが、身近にあることで実現できる「やりたいこと」が社会貢献につながれば、自己超越の欲求は満たされます。
自己実現は簡単ではない
自己実現についてさまざまな角度からお話してきましたが、実際のところ、自己実現を目指し行動することは容易くはありません。なぜ自己実現を目指すことは難しいのでしょう。自己実現できない人に多く見られる「欲求がない」や「途中で挫折してしまう」という2つの特徴から自己実現が簡単ではない理由を考えてみましょう。
欲求がない
自己実現には5段階の欲求をいかに満たすかが重要な意味をもちます。しかし自分には欲求がないから自己実現ができないと考えてはいないでしょうか。
自己実現を果たすために、まずは自分自身ときちんと向き合うことが大切です。自分のなかにある小さな欲求から探してみることをオススメします。
自分の心と会話することで、本当に自己実現を満たすための欲求がないのかを知ることができるでしょう。時間がないなどの言い訳を作らず、自分に向き合う時間を作り、自身を振り返ってみましょう。
途中で挫折
やりたいことを意欲的にやることは自己実現を目指すなかで大切なことです。しかし無計画にやりたいことばかりを優先してしまうようでは、目標を達成する前に挫折してしまいかねません。
目標を達成しょうと、がむしゃらに突き進むのではなく、前述した「ありのままの状態であること」を考慮し、自分らしく、自分のペースで進めることも大切です。途中挫折しないためにも、周囲や自分の現状把握を的確におこない、効率的に動く方法を考えることで自己実現につなげていけるでしょう。
自己実現をノートで叶えよう
ここまでに自己実現が簡単ではないと説明をしてきました。では、いかにして自己実現を目指すべきなのでしょう。自己実現を叶えるためのノートを使ったテクニックがあります。成功のキーワードは「夢ノート」「目標達成ノート」「自己発見ノート」の利用です。大きすぎる目標は失敗しがちです。できることからはじめるために、ノートを使った自己実現を学びましょう。
夢ノートから見た考え方
夢(理想的自己イメージ)を実現することは、プライベートでの自己実現につながります。その際に利用したいものが「夢ノート」です。
夢ノートとは「未来日記」のようなものです。夢ノートに未来に叶えたい目標や願望を書きつづっていくことで、自己実現を目指しやすくします。しかしやみくもに夢や願望を書きつづるだけでは自己実現を果たすことは難しいでしょう。夢を叶えるための具体的なイメージが湧くような形で記入していくことがポイントです。自分のなかの潜在意識に働きかける書き方を意識し、「○月○日に英検の過去問で正答率が80%を超えた!よく頑張った」のように文末は完了形で、日時や数字を明確にしておくといいでしょう。
目標達成ノートから見た考え方
プライベートな自己実現を目指す「夢ノート」に対し、パーソナルな自己実現を目指すために利用したいものとして「目標達成ノート」があげられます。どちらも目標を達成するために使いますが、公私をはっきりと分けておくことで、よりいっそう自分のなかにある顕在意識に働きかけやすくなるでしょう。
仕事上での目標達成に向けた目標達成ノートのポイントは、目標や必要なタスクを細分化することです。いきなり大きな目標を掲げてしまうと、途中で挫折してしまい自己実現を断念してしまう可能性が出てきます。挫折しないためにも、小さな成功をたくさん積み上げられるよう意識して書いてください。
自己発見ノートから見た考え方
自己実現を目指すためには、自分自身を丁寧に見つめることが重要です。しかし想像するだけでは自分自身を丁寧に見つめることは少しむずかしいかもしれません。頭に思い浮かぶ自分自身に対するワードを、頭のなかだけで処理するのではなく、ノートに書き出す(アウトプット)することで整理していきます。書き出して文字にすることで、思いも寄らない新たな発見や、別の思考への扉が開く可能性も高くなります。自己発見ノートを書いていくことで、自分のなかにある欲求や夢、目標や目指すゴール地点も見えてくるはずです。だからこそ自身を見つめることは自己実現へとつながっていくのでしょう。
まとめ
自己実現の意味を知り、自身のなかにある欲求を知る。そして自分の本来あるべき姿で正直に生きることが自己実現を目指す上でもっとも大切なことです。しかし自己実現は容易なことではありません。夢ノートや目標達成ノート・自己発見ノートなどを活用し、自分自身を見つめていくことが大切なのです。まずは「やりたいと思ったことはやる」「やりたくないと思ったことはやらない」、この2つのシンプルな気持ちで行動を起こしてみてはいかがでしょう。
最後のチェックポイント
- 自己実現とはありのままの自分で生きること
- 欲求5段階説を知り自分の欲求の度合いを見極め次の行動を考える
- 自分自身をよく見つめることが自己実現へと向かう鍵
- 夢や目標・自己発見は、文字にして書き出して自己実現へとつなげる