デジタルスキル標準とは?DX社会で求められるスキルの指標も解説
はじめに
日々進歩していくデジタル技術を正しく活用し、課題解決や競合他社をリードするためにも、企業経営においてDX人材の確保や育成は必要不可欠といえるでしょう。経済産業省は令和4年12月、「デジタルスキル標準」を公開しました。DX人材育成に必要な素養やスキルの指標をまとめた「デジタルスキル標準」とはどういったものなのか、詳しく見ていきましょう。
デジタルスキル標準策定の背景
日本国内ではDX分野に精通した人材が不足しており、DX推進に後れを取っている企業も多いのが現状です。こういった事情を踏まえ政府は、令和4年6月に閣議決定したデジタル田園都市国家構想基本方針で「令和4年以内にDX推進人材向けのデジタルスキル標準を整備する」と表明しました。デジタルスキル標準とは、専門知識や技術のある人材を育成することに加えて、ビジネスパーソン全体がDXリテラシーを身に付けDX化に参画することを後押しする指針といえます。
DXとは、データやデジタル技術を活用してビジネスや企業、社会の変革をもたらすことです。こちらの記事ではDXが必要な理由やこれからの課題、DXの成功事例などを解説しています。
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デジタルスキル標準は2つの指針で構成
デジタルスキル標準は、DXリテラシー標準とDX推進スキル標準の2種類で構成されています。令和4年3月に公開された「DXリテラシー標準」に加えて、より専門的な知識や能力が必要とされるDX人材向けのスキル標準となるDX推進スキル標準が新たに策定されました。共通的な指標として汎用性を持たせた表現で転用しやすく、DX推進していくにあたって各人材に求められる知識やスキルが何かを総合的に参照できます。
DXリテラシー標準
DXリテラシー標準とは、すべてのビジネスパーソンを対象としたDXに関する基礎知識や考え方の指標となるスキルの標準についてのまとめです。一人ひとりがDXリテラシーを身に付けることで、自分の業務とDXを関連付けて考えることができ、業務改革や新たなサービスのアイデアへとつなげることが可能となるでしょう。上記の図は、IPA(情報処理推進機構)によるDXリテラシー標準の全体像です。個人の意識改革(マインドスタンス)を土台として、DXについての理解を深め、どのように活用していくかを図解しています。
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DX推進スキル標準
ビジネスアーキテクト | 『DXの取組みにおいて、ビジネスや業務の変革を通じて実現したいこと(=目的)を設定したうえで、関係者をコーディネートし関係者間の協働関係の構築をリードしながら、目的実現に向けたプロセスの一貫した推進を通じて、目的を実現する人材 |
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デザイナー | ビジネスの視点、顧客・ユーザの視点等を総合的にとらえ、製品・サービスの方針や開発のプロセスを策定し、それらに沿った製品・サービスのありかたのデザインを担う人材 |
データサイエンティスト | DXの推進において、データを活用した業務変革や新規ビジネスの実現に向けて、データを収集・解析する仕組みの設計・実装・運用を担う人材 |
ソフトウェアエンジニア | DXの推進において、デジタル技術を活用した製品・サービスを提供するためのシステムやソフトウェアの設計・実装・運用を担う人材 |
サイバーセキュリティ | 業務プロセスを支えるデジタル環境におけるサイバーセキュリティリスクの影響を抑制する対策を担う人材 |
DX推進スキル標準ではDXを推進するための中心的な役割を担う人材が5つの人材類型に区分して定義されました。人材類型に振り分けられた役割を遂行すると同時に、他の類型とのつながりを積極的に構築した上で、連携を取りながらDXを推進していくのが重要です。DX推進スキル標準とは、人材育成において個人の能力・スキルの見える化に役立つ指標であると同時に、自社や組織に必要な人材やポジションの把握にも役立ちます。
人材類型にひもづく15のロール
5つの人材類型からさらに15のロールへと区分して、DX推進において求められる必要な知識やスキルの違いをまとめています。役割がより詳細に区分されることで、ロールに割り振られた人材が伸ばすべきデジタルスキルとは何かがわかるでしょう。業務別に詳細な区分をすることで、自社に必要なのはどういったスキルを持つ人材なのかを把握しやすくする狙いがあります。例えば事業の新たな目的を設定し、その実現に責任を持つ人材であるビジネスアーキテクトは3つのロールに区分され、新規事業開発、既存事業の高度化、社内業務の高度化・効率化といった目標を設定されています。
DX推進スキル標準 ロール一覧 | |
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ビジネスアーキテクト | ビジネスアーキテクト(新規事業開発) |
ビジネスアーキテクト(既存事業の高度化) | |
ビジネスアーキテクト(社内業務の高度化・効率化) | |
デザイナー | サービスデザイナー |
UX/UIデザイナー | |
グラフィックデザイナー | |
データ サイエンティスト | データビジネスストラテジスト |
データサイエンスプロフェッショナル | |
データエンジニア | |
ソフトウェアエンジニア | フロントエンドエンジニア |
バックエンドエンジニア | |
クラウドエンジニア/SRE | |
フィジカルコンピューティングエンジニア | |
サイバーセキュリティ | サイバーセキュリティマネージャー |
サイバーセキュリティエンジニア |
DX人材に求められるスキル
人材類型にひもづく15のロールには、各ロールがDX推進において担う責任や、スキルとその重要度なども記載されています。例えば、データの処理や解析を行うデータサイエンスプロフェッショナルの場合、機械学習・深層学習の項目は最も重要度の高い「a」といったように、求められるデジタルスキルの種類はロールによって異なります。どのスキルを優先して伸ばすべきか、共通スキルリストを参考にすれば人材育成やリスキリングの際に役立つでしょう。
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デジタルスキル標準に準拠した学習プログラム
デジタルスキル標準に則ったDX人材育成プログラムを2つ紹介します。経済産業省とIPAは今後、効果的に学習しやすいUIを構築していく予定とのことです。民間企業でも育成支援プログラムの提供されており、今後もさまざまなサービスの展開が期待できるでしょう。
経済産業省開設の人材育成プログラム
マナビDX Questは令和4年に経済産業省主導で開設されたDX推進人材育成プログラムです。企業データに基づいた実践的な教育プログラムと、地域企業と協働したオンライン研修プログラムで構成されています。受講生同士交流を深めながら学習を進めていくことで、課題の発見やコミュニケーション能力といったビジネス要素も高められます。デジタルスキル標準に準拠したスキルの獲得やロールを目指せるだけでなく、企業のDX推進の思考プロセスを学び、デジタル人材との交流の機会を持てることもポイントです。
民間企業による人材育成プログラム
ある民間企業では業界に先駆けてAIやセキュリティ、デザイン思考などについて学べるプログラムを開講し、DX人材育成に取り組んでいました。令和5年2月からはデジタルスキル標準公開を受け、5つの人材類型ごとに育成メニューの整備を行い、実践的なスキル習得を目指せるプログラムの提供を開始しています。遠隔ライブ研修やeトレーニングで知識の定着を行い、ワークショップや模擬演習を通じてスキルの定着を行うほか、専門家によるOJTや伴走型支援によって業務で活用できる実践的なスキルの習得が可能です。
まとめ
DX人材にはそれぞれ役割が分類されており、強化すべきスキルも異なります。共通スキルリストを参考にすれば、スキルの見える化や役割に沿った重要度の高いスキルを把握できます。これからの企業経営では、デジタルスキル標準やDX推進スキル標準を読み込んで、DX人材の確保や育成について改めて考えることが重要となるでしょう。
最後のチェックポイント
- デジタルスキル標準はDX人材育成や採用のための指針
- DXリテラシー標準とDX推進スキル標準の2つで構成されている
- DX推進スキル標準ではDX人材を5つの人材類型に区分している
- さらに役割を細分化した15のロールへと区分して必要なスキルを提示
- デジタルスキル標準を元にした育成支援プログラムも展開されている