脱炭素とは?脱炭素社会への課題と日本・世界の取り組みまで解説
はじめに
地球温暖化をはじめとした環境問題対策は、人類全体の課題といえるでしょう。近年、環境問題対策で注目されているのが「脱炭素」という考え方で、英語表記では「Decarbonization」といいます。脱炭素とはどのようなものなのか、脱炭素社会を目指すうえで課題となる事柄や国内外の動き・取り組みについて解説します。
脱炭素とは?
脱炭素とは簡単にいえば、二酸化炭素の排出を実質ゼロにしようという取り組みのことです。地球温暖化を促進させる温室効果ガスのうち、二酸化炭素が占める割合は7割以上にものぼります。世界の気温上昇に歯止めをかけるためには、年々増加している二酸化炭素の排出量を減らすことが必要不可欠であるという認識が国際的に広まっていることは、後述するパリ協定での満場一致の採決からも伺えます。二酸化炭素排出実質ゼロの脱炭素社会を実現するべく、国や企業は多様な施策を打ち出しています。
参考:気象庁|温室効果ガスの種類
なぜ重要視されている?
二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスがあることで、私たちの暮らしている地球は適切な温度に保たれていますが、大気中の濃度が高くなりすぎると温暖化によってさまざまな問題を引き起こします。例をあげると、平均気温の上昇で南極・北極の氷が解け海面が上昇して陸地が減る、異常気象によって農作物の収穫量が減り食料不足が起こるといった問題です。国連サミットで2015年に採択されたSDGsも踏まえて、持続可能な未来のために気候変動対策は避けて通れないものであり、世界全体で取り組んでいくべき課題だという認識が強まっています。
脱炭素推進のきっかけ
続いて、脱炭素社会推進のきっかけとなった出来事やチェックしておきたい環境問題に関する言葉について解説します。パリ協定は、温暖化対策に関する国際条約として2020年まで効力を持っていた京都議定書の後継ともいえる取組みです。また、ニュースなどでも何かと耳にする機会の多いSDGsの目標のひとつは脱炭素社会とも関連があります。
パリ協定
パリ協定は温室効果ガス排出量の削減を求める国際的取り決めで、2015年に合意されました。途上国を含む196カ国が公平な合意を示し、満場一致で採択された点が大きな特徴です。2020年までの温暖化対策目標として先進国に課せられていた京都議定書と違い、各国に自主的な取り組みを促すボトムアップのアプローチが採用された点も特筆すべき部分といえるでしょう。平均気温上昇の2℃を目標、1.5℃に抑える努力を追求するといった長期目標達成のため、効果的な取り組みとして脱炭素化が推進されるようになりました。
SDGs
持続可能な世界を実現するため2030年までに達成すべき国際目標として、国連総会で採択されたのがSDGsです。教育・ジェンダー格差や貧困問題といった多種多様な課題について触れており、17のゴールと169のターゲットで構成されています。SDGsを達成することによって少子高齢化や多様性による変化といった多くの問題が解決できると注目を集めています。脱炭素社会を目指すことは、13番目の目標として掲げられている「気候変動に具体的な対策を」の実現にもつながります。
SDGsについてはSDGsを簡単に解説!17の目標や企業が取り組む理由と個人で出来ることで詳しく解説しています。個人レベルでも可能な取り組みもあるので、身近な部分でアクションを起こせることがないかチェックしてみましょう。
脱炭素とカーボンニュートラルの違いは?
カーボンニュートラルは、温室効果ガスの排出をできる限り減らしたうえで、二酸化炭素を吸収してくれる植物の働きによってトータルの排出量を実質ゼロにしようという試みのことを指します。脱炭素との違いは、森林保全や植林活動を通じて二酸化炭素の吸収をしてくれる植物を確保し、温室効果ガスの削減をはかるという点です。基本的な考え方は共通しているため、脱炭素とカーボンニュートラルを同じ意味の言葉として使用する場面も多いです。
企業経営や投資面でも注目されている
脱炭素は企業経営や投資信託の観点からも注目されていて、パリ協定を機に気候変動対策を織り込んだ経営戦略や目標設定を掲げる企業も増えています。次世代エネルギー開発など将来性のある分野も多く、脱炭素に関する銘柄・ファンドに投資家や金融業界も高い関心を寄せています。持続可能な社会を実現していくため、環境問題への対策は今後の企業経営に避けては通れない重要事項のひとつであるといえるでしょう。
脱炭素実現に向けた国内外の取組み
パリ協定をきっかけに多くの国が脱炭素社会を目指し、多様な部門で取り組みが進められています。政策や補助金といった国が主導する活動だけでなく、企業が主体となって省エネルギーや環境保全に取り組んで脱炭素化を目指している事例もあります。この項目では日本や世界の動きや具体的な事例を紹介します。
法整備をはじめとした日本政府の動き
日本では2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、新たな補助金を設けたり法律を策定したりといった動きが見られます。2021年5月には改正地球温暖化対策推進法が成立され、2022年10月には国の財政投融資と民間からの出資を元にファンド事業の側面から脱炭素を促進する株式会社脱炭素化支援機構が設立されました。そのほか、太陽光発電導入やCO2削減比例型設備導入支援に関して新たな補助金が予算計上され、脱炭素社会への設備投資を促しています。
参考:環境省|脱炭素ポータル
脱炭素先行地域
脱炭素地先行地域とは、温室効果ガス排出実質ゼロを実現するためのモデルケースとして環境省に選ばれた地域のことです。地元企業や金融機関、地方自治体が中心となり、再生可能エネルギー発電設備の導入や地域の自然資源を活用したCO2吸収源対策といった取り組みが進められています。脱炭素社会への意欲と実現性の高い地域から近隣地域へと波及し、日本全国へと取り組みを広げていく脱炭素ドミノ倒しを起こすため、さまざまな施策が打ち出されています。
日本企業の取組み
発電などのエネルギー転換・産業・運輸といった、暮らしを営む過程で多量の温室効果ガスが排出されています。脱炭素社会を実現するためには、石油や石炭といった化石燃料に変わる次世代エネルギーの利用や、再生可能エネルギーを生成するための新たなテクノロジー開発が鍵となります。この項目では、日本企業がどのような取り組みを行っているのか2つの事例を紹介します。
取り組み事例1
NTTデータでは自社のエコ活動だけに留まらず、グリーン事業を通じて他社の温室効果ガス排出量削減支援や電力の最適化といったソリューション提供も行っています。商品の製造から消費までのサプライチェーン全体で脱炭素化を考え、自社のデジタル技術を活用したグリーンコンサルティングサービスで戦略立案から実行支援までをトータルでサポートしているのが特徴です。
取り組み事例2
日産リーフをはじめとした多彩な電動車両を展開している日産自動車では、2030年代早期より主要市場へ送り出す新型車をすべて電動車両にするという目標を掲げ、より効率的なバッテリー技術やエコシステムの開発に力を注いでいます。そのほか佐賀県小城市と「脱炭素化および強靱化に関する連携協定」を結び、電気自動車を活用した災害時の電力供給体制の構築をする活動も行っています。
世界の動き
現在125カ国・1地域が2050年までに、(世界最大のCO2排出国である中国は2060年までに)カーボンニュートラルの実現を表明しています。EUでは削減目標に応じた複数のシナリオの分析、英国では電力需要をシミュレートするなど、脱炭素社会を実現するための方法を模索しています。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響で落ち込んだ景気回復の一環としての脱炭素分野における政策的支援も活発です。各国とも地球温暖化対策を制約ではなく未来への先行投資と考え、研究開発や先端技術の導入を積極的に支援しています。
参考:経済産業省|資源エネルギー庁 第2節 諸外国における脱炭素化の動向
取り組み事例1
iPhoneをはじめ日本でも高いシェアを誇るApple社も、脱炭素化を目指してクリーンエネルギーや気候変動対策に力を入れている企業のひとつです。2018年以降オフィスや直営店などグローバル事業活動での電力のすべてを再生可能エネルギーでまかなっているほか、他社と提携して森林管理に投資して炭素除去にも取り組んでいます。
取り組み事例2
ダノンビオやオイコスなどの乳酸菌食品で親しまれているダノン社は2021年12月に、英国非政府組織慈善団体であるCDPから3部門すべてで最高評価であるトリプルAを受賞しました。ダノン社はバリューチェーン全体で2050年までにカーボンニュートラルを達成するための戦略を立てています。気候変動対策・水セキュリティ対策・森林保全の3つの調査において3年連続受賞を達成したことで、大企業が環境問題について取り組むことの意義を示しました。
まとめ
地球温暖化へブレーキをかけるためには、多くの人々が当事者意識を持って取り組む必要があります。個人で取り組むのは難しいように感じる方もいるかもしれませんが、自動車ではなく公共交通機関を利用する、脱炭素化を推進している企業の製品を選ぶといった行動も脱炭素化社会へのアクションです。気軽に始められる小さな取り組みの積み重ねが脱炭素社会への一歩となります。
最後のチェックポイント
- 脱炭素とは二酸化炭素の排出を実質ゼロにしようとする取り組みのこと
- 持続可能な社会を実現する有効な気候変動対策として重要視されている
- 企業経営や投資の観点からも注目が集まっている
- 日本政府は法整備や補助金支給、先行地域の選出などで脱炭素社会を奨励
- デジタル技術や再生可能エネルギーの活用で脱炭素化を進める日本企業もある
- 諸外国でも脱炭素政策が打ち出され、海外企業も多様な施策を展開