わかる! 仮想現実その歩みとフィクションの影響/ARとの違い
はじめに
近頃いろいろなメディアで「仮想現実」という言葉がよく使われています。この記事では仮想現実の歴史や、フィクションとの関わり、仮想現実によって何ができて、これからどうなっていくのかの展望、などについて解説します。
仮想現実とは
仮想現実について「ゲームをする人だけの話」「新しいことにはついていけない」と、なんとなく遠く感じている人も多いのではないでしょうか。しかし実際の「仮想現実」は、医療やビジネスなどの身近な分野においてもさまざまな可能性を秘めている広範な概念なのです。
デジタルにまつわる新しい概念のひとつ「DX(デジタルトランスフォーメーション)」については、こちらの記事を参考にしてみてください。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは? 何かをわかりやすく解説
もう一つの現実
「仮想現実」は、英語にすると「VR(Virtual Reality/バーチャル・リアリティ)」となります。「現実と同じような環境を、人間の五感を刺激することによって理工学的に作り出す技術」を意味します。現在は、主に専用のゴーグルやヘッドセットを装着して、コンピューターによって作られた仮想の世界、すなわち「もう一つの現実」を体験できる技術として実現しています。
VRを活用したものの例として、手術の練習のためのシミュレータや、災害現場を想定したトレーニングなど、多様な分野に活用されています。
拡張現実(AR)との違い
VRと似た言葉に「AR(Augmented Reality/アグメンティッド・リアリティ)」というものがあります。現実世界にデジタル情報を映し出す(=現実世界を拡張する)技術のことです。ARは「現実世界が主体となっている」「スマートフォンやタブレット端末などで手軽に体験できる」などと言った点でVRとは異なります。
ARを活用したものの例としては「携帯端末を通して現実の風景の中にキャラクターが現れるゲーム」や「自分を映し出した画面の中で服を試着できるアプリ」などが挙げられます。
現在の仮想現実
現実の世界は非常に多くの情報と、それらを受け取る人間の感覚によって構成されています。「もう一つの現実」が体験できる仮想現実ですが、現在はどこまで再現することが出来ているのでしょうか。
現実との違い
VRとは「人間の五感を刺激することによって、あたかも実際の体験のように感じることのできる技術」とされています。とはいえ、現在のところは主に、ヘッドセットの液晶モニターによる視覚と音声による聴覚への刺激、の2つに限られてしまっています。残る3つの感覚、嗅覚・味覚・触覚は、仮想現実においてはまだあまり再現されていません。
また、ヘッドセットが重い、装着に違和感がある、体験中にパソコンなどとつながるケーブルに引っかかってしまう等々……仮想世界への完全な没入感を得るには、まだまだ解決しなければいけない課題がたくさん存在します。
仮想現実の歴史
仮想現実という概念は、近年になって登場したように感じられるかもしれませんが、そうではありません。その歴史は随分と前から続いてきているようです。
1935年:仮想現実小説が発表される
「仮想現実」という定義・概念が生まれたのは、今より半世紀以上前の1935年のことです。アメリカのSF作家、スタンリイ・G・ワインボウムによる短編小説「Pygmalion’s Spectacles」が発表されました。その作中に、ゴーグルを装着することで擬似体験ができる装置が登場しています。
1968年:VRの前身となる技術が発表された
現実世界でVRの研究が本格的に始まったのは、1960年代になります。1968年、アメリカの科学者であるアイバン・サザランドが「ダモクレスの剣」という、ブラウン管を使ったヘッドマウントディスプレイを開発しました。
天井からつり下げたヘッドセットを装着することで、現実世界の風景とコンピューターの画面が重なり立体的に見えるというもので、現在のVRにも近い技術がすでに発表されていたのです。
1989年:「RB2(Reality Built for 2)」が発表される
1989年、サンフランシスコで行われたTexpo’89と呼ばれるイベントで、VRは初めて市場に向けて発表されました。ベンチャー企業・VPL Research社が開発した「RB2(Reality Built for 2)」というシステムです。
コンピューターによる空間の中で、2名のユーザーが握手などのコミュニケーションをとれるもので、創業者の一人であるジャロン・ラニアーがこの世界観を「VR」と名付けました。
1990年代:第一次VRブームの到来
この頃、映画やゲームなどでCGの使用が一般化し、VR技術にも注目が集まってきました。VPL Research社が発表した「The Eyephone」と「The Data Glove」をはじめ、日本でも任天堂が1995年に「バーチャルボーイ」を発表し、話題となりました。
1990年代は、「第一次VRブーム」の時期とされています。しかし、当時の技術では仮想現実への十分な没入感を体験するのは難しく、価格も高額だったことなどから、VRの普及には至りませんでした。
2012年:「Oculus Rift」の登場
2012年、当時20歳のパルマー・ラッキーがクラウドファンディングによって約2億8,000万円の資金を調達し、開発した「Oculus Rift」が発表されました。
Oculus Riftはヘッドセットのレンズを魚眼レンズにし、最初からゆがませた映像を内部に投影することで、ユーザーの目には正しく見えるようにしました。この「湾曲系光学システム」によって、ヘッドセット内の視界を360度覆うことに成功したのです。
2010年代中期~:VR元年の到来・第二次VRブームへ
Oculus Riftを開発したOculus VR社は、2014年、Facebook社によって買収されます。これがゲーム以外の業界からも注目を集め、VRへの期待感が高まったこともあり、VRは普及へと一気に加速していきます。
2016年は、「PlayStation VR」など、仮想現実を活用した製品が数多くリリースされ、企業が仮想現実を導入したマーケティングに乗り出しはじめたことから「VR元年」と呼ばれています。
これから~技術の方向性
第二次VRブームを経て、ますます注目が高まるであろう仮想現実。この先の未来に向けて、その技術開発はどう発展していくのでしょうか。もしかすると現在の創作物がヒントになるのかもしれません。
フィクション中での仮想現実
ゲームや映画など、仮想世界を題材としたフィクションは、古今を問わず多数存在します。当時は物語の中で描かれていた物が、技術の進歩で実現する可能性が出てきました。今、フィクションの中で「仮想現実」はどのように表現されているでしょうか。
VR技術の先~フルダイブ
VR内の仮想世界を舞台とした作品として、有名なものに映画「マトリックス」「アバター」、日本のライトノベル作品「ソードアート・オンライン(SAO)」が挙げられます。これらの作品では、「フルダイブ」という未来のVR技術が描かれています。フルダイブとは、仮想現実と五感を接続することで、映像や音声を感じるだけでなく、意識全体が仮想世界に入り込める、とされる概念です。実は現実世界でも研究が進んでおり、Googleのレイ・カーツワイルは2030年にはフルダイブ技術が確立するのでは、と予測しています。
まとめ
「仮想現実」は現在まで半世紀以上をかけて進歩してきた概念・技術です。最初は物語の中の物だったようです。
日本では、まだ広く普及しているとは言えませんが、今後は「現実世界」と「仮想世界」の距離は縮まり、より身近なものとして日常生活に浸透していくでしょう。仮想現実がより活用されていく未来に先駆けて、今から興味のある分野で「仮想現実」に興味をもち、いろいろなVRコンテンツに触れてみてはいかがでしょうか。
最後のチェックポイント
- 仮想現実は五感を理工学的に刺激する事で体験できる
- 携帯端末などを介して体験できるARは現実世界が主体
- 現在のVR技術は視覚と聴覚への刺激がメイン
- 仮想現実の技術は半世紀以上をかけて進歩し続けている
- フィクションで描かれている概念は現実でも研究が進んでいる