開業届の職業欄はどう書く?適切な記入例と注意点を解説


はじめに
- 開業届は事業を開始してから1か月以内に税務署に届け出る
- 職業欄と事業の概要欄は具体的な内容でわかりやすいように記入する
- 職業欄は個人事業税の税率にかかわる
- 複数の事業がある場合は一番収入が高いものを職業欄に記入しよう
- 事業の変更があっても開業届の再提出は不要だが、確定申告書の職業欄に正しく記入する必要がある
開業届には職業欄・事業の概要欄の記入が必要
新しく事業をはじめたときは、開業届を提出する必要があります。届け出先は、納税地を管轄する税務署です。原則として、開業から1か月以内に、事業所が存在する場所の税務署へ開業届を提出します。
開業届では、職業欄および事業の概要欄について、どのように記入すればいいのかよくわからないという方が見受けられます。とくに記入方法の決まりはないものの、後述する個人事業税の税率に関わってくるため、何の事業をしているのかしっかり記入するのがポイントです。
この記事では、これらの記入方法や注意点などを解説します。
なお、開業届の用紙は税務署の窓口でもらえるほか、国税庁のホームページからもダウンロードが可能です。
参考:国税庁 – A1-5 個人事業の開業届け出・廃業届け出等手続
職業欄には具体的な職業を記載する
開業届の職業欄は「フリーランス」「個人事業主」というような書き方ではなく、具体的にどのような職業を営んでいるかわかるように記入しましょう。たとえば「システムエンジニア」「個人小売店店主」などです。
なお、職業欄の書き方に迷った場合は、総務省が公開している「日本標準産業分類」という分類表を参考にするのもよい方法です。
事業の概要欄は明確に書こう
開業届における事業の概要欄は、職業欄の業務内容を詳しく記入する場所です。職業欄よりも詳しく、実際の仕事内容や事業内容を記入しましょう。
たとえばWebライターであれば「Webメディア記事の構成作成および記事執筆」、海外ブランド服のセレクトショップを営んでいるなら「インポート輸入服販売」のように記入します。
開業届における職業欄の書き方
ここまで、開業届の職業欄、事業の概要欄の基本的な書き方を解説しました。しかし、書き方にルールはないといっても、「自分の職業の場合はどのように書けばよいか」と戸惑う人も多いでしょう。
このセクションでは、いくつかの職業を例に挙げて、書き方の例を紹介します。書き方に困ったときは参考にしてください。
開業届:職業欄・事業の概要欄の例文
開業届の職業欄・事業の概要欄について、職業ごとに書き方の例を挙げます。
- システムエンジニア
職業:システムエンジニア
事業の概要:ソフトウェアの設計・開発・プログラミング、およびシステムの保守 - 商店街の個人商店店主
職業:文房具店運営
事業の概要:学生向けの筆記用具を中心とした文房具の販売、社会人向けの万年筆の販売 - Webデザイナー
職業:Webデザイナー
事業の概要:Webサイトのデザイン制作、LPのデザイン制作、コーディング - ラーメン店経営
職業:飲食店
事業の内容:ラーメン店の経営、ラーメンやサイドメニューの提供、メニューの開発 - YouTuber
職業:インターネット関連サービス業
事業の概要:YouTubeの企画・動画作成および編集、動画公開と管理、YouTubeコミュニティ管理
開業届作成、提出における注意点
このセクションでは、開業届の作成や提出に関する注意点を解説します。
複数の事業がある場合、収入がもっとも多いものを記入する
新しく事業をはじめるとき、最初から複数の事業を並行して開始する方も中にはいます。この場合、開業届の職業欄はどのように記載すればよいか迷うこともあるでしょう。
このような場合は、最も収入の多いものを代表として職業欄に記入すれば問題ありません。並行している事業は事業の概要欄に詳細を記載してください。
複数の事業がある場合は確定申告の記入に注意
個人事業税に直接関係してくるのは、確定申告書の職業欄です。したがって、事業内容に変更があっても開業届の再提出は不要です。
しかし、これはつまり、確定申告ではしっかりと事実を記入する必要があるということです。とくに複数事業をおこなっている場合は、事実関係が複雑になりがちであるため、しっかりと確定申告書の職業欄で、実際にどのような事業をおこなったのかきちんと記入することが肝要です。
事業内容を変更しても再提出は不要
事業を新しくはじめたものの軌道に乗らず、別の事業をはじめてみると本業より売上伸びたパターンは珍しくありません。このように、開業届の提出時に記入した職業と現在の主な職業は異なる場合でも、開業届を再提出する必要はありません。
ただしその代わりに、確定申告で「職業の詳細」を記入するときは、現在の職業と所得などを正確に記入する必要があることに十分注意しましょう。
開業届の職業欄は個人事業税にかかわる
個人事業税とは、個人が営む事業に対してかかる地方税の一種で、地方税法によって定められています。個人事業税は、開業届に記入された職業欄の業種によってかかる税率が違うことに注意が必要です。このため、職業欄はきちんと記入するようにしましょう。
このセクションで詳細を解説します。
職業により個人事業税の税率が違う
個人事業税とは、個人が営む事業のうち、地方税法などで定められた業種(法定業種)に対してかかる税金のことです。法定業種は70種類あり、ほとんどの事業が該当します。
個人事業税は5%であることが多いですが、事業の種類によっては3%または4%のものも存在します。
業種と税率は以下の通りです。
区分 | 税率 | 事業の種類 |
---|---|---|
第1種事業 (37業種) | 5% | 物品販売業、運送取扱業、料理店業、遊覧所業、保険業、船舶定係場業、飲食店業、商品取引業、金銭貸付業、倉庫業、周旋業、不動産売買業、物品貸付業、駐車場業、代理業、広告業、不動産貸付業、請負業、仲立業、興信所業、製造業、印刷業、問屋業、案内業、電気供給業、出版業、両替業、冠婚葬祭業、土石採取業、写真業、公衆浴場業(むし風呂等)、電気通信事業、席貸業、演劇興行業、運送業、旅館業、遊技場業 |
第2種事業 (3業種) | 4% | 畜産業、水産業、薪炭製造業 |
第3種事業 (30業種) | 5% | 医業、公証人業、設計監督者業、公衆浴場業(銭湯)、歯科医業、弁理士業、不動産鑑定業、歯科衛生士業、薬剤師業、税理士業、デザイン業、歯科技工士業、獣医業、公認会計士業、諸芸師匠業、測量士業、弁護士業、計理士業、理容業、土地家屋調査士業、司法書士業、社会保険労務士業、美容業、海事代理士業、行政書士業、コンサルタント業、クリーニング業、印刷製版業 |
3% | あんま・マッサージ又は指圧・はり・きゅう・柔道整復・その他の医業に類する事業、装蹄師業 |
個人事業税がかからない職業もある
前項で紹介した法定業種に当てはまらない職業の場合、個人事業税は非課税となります。
たとえば、以下のような業種です。
- 漫画家、作曲家、作詞家、小説家などクリエイティブ関連の職業
- システムエンジニア、プログラマーなどIT関連職
- 林業や鉱物採掘業務
- プロスポーツ選手
- 翻訳や通訳
ただし、これらの職業であっても、業務の実態が「請負業」などの法定業種と判断されたら、個人事業税がかかるケースがあります。
たとえば、プログラマーや翻訳家などが、単なる作業の代行ではなく、成果物を納品する契約内容で報酬を受け取っている場合、「請負業」とみなされて課税対象になることがあります。ほかにも、イラストレーターなども同様のことが起こっているため、事業内容はきちんと記入することが肝心です。
また、事業所得290万円以下の方は個人事業税の対象外となり、非課税です。
開業届を出した当初と事業内容が変わっている方は、確定申告書の職業・事業内容の欄が税率の根拠となるため、きちんと記入して提出しましょう。
まとめ
開業届は、新しく事業を開始してから1か月以内に管轄の税務署に届け出をしなければなりません。
開業届の職業欄と事業の概要欄の書き方にルールはとくにありませんが、具体的な内容でわかりやすいように記入する必要があります。職業欄は個人事業税の税率にかかわるので、きちんと記入しましょう。
また、複数の事業をおこなう場合は一番収入が高いものを職業欄に記入すれば問題ありません。
事業内容が変わった場合でも、開業届の再提出は不要です。ただし、個人事業税にかかわるため、確定申告書の職業欄は正確に記入する必要があります。
はじめての開業で戸惑うこともあるかもしれませんが、適切に届け出や申告をおこない、事業を成功に導きましょう。