「セルフ・コンパッション」とは?意味・メリット・やり方を紹介
はじめに
- セルフ・コンパッションとは、自己に対して思いやりや慈しみをもって接するという心理学的な概念である
- セルフ・コンパッションには、マインドフルネス、セルフ・カインドネス、コモン・ヒューマニティの3つの構成要素がある
- セルフ・コンパッションと相反する状態に、過剰な同一化・自己批判・孤独感がある
- セルフ・コンパッションには、ウェルビーイングを高め、QOLやレジリエンスの向上といった効果がある
- セルフ・コンパッションを組織に取り入れることで、多くの職場環境の改善・向上がはかれる
現代社会はストレスが多く、生きづらさを感じている方も少なくありません。そこで、ありのままの自分を受け入れることで、物事を前向きに捉える思考法である「セルフ・コンパッション」が注目されています。
本記事では、セルフ・コンパッションの意味やメリット、具体的なやり方を解説しますので、お役立ていただければ幸いです。
セルフ・コンパッションとは
セルフ・コンパッションは、「自分自身への思いやり」を意味する心理学用語で、米国テキサス大学のクリスティン・ネフ准教授によって提唱されました。この言葉は、「self:自分自身」と「compassion:思いやり・慈悲」をあわせたものです。ネフ氏は、慈悲喜捨・中道・マインドフルネスといった仏教の教えに注目して、自分自身にも他者に対するような慈しみや思いやりをもつように提案しています。これにより、自分を肯定的に受け入れることができるようになります。
なぜ今、注目されるのか?
日本人の美徳のひとつに「人にやさしく自分に厳しく」という考え方がありますが、ストレスが多い現代においてこれは簡単なことではありません。セルフ・コンパッションは、自分自身への思いやりや慈しみによって、ストレスを緩和する有効な方法として注目されています。
セルフ・コンパッションの3つの構成要素
セルフ・コンパッションは3つの要素から構成されています。これらは互いに補完しあい、自己理解と他者への理解を深めるために役立ちます。
セルフ・コンパッションの3つの構成要素 |
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マインドフルネス(mindfulness):今の自分を受け入れる |
セルフ・カインドネス(self-kindness):自分への優しさ |
コモン・ヒューマニティ(common humanity):共通の人間性 |
マインドフルネス(mindfulness):今の自分を受け入れる
マインドフルネスとは、「今この瞬間」に意識を向け、自分の感情や思考・体の感覚を評価せずにそのまま受け入れる心の状態をいいます。つまり、現在の自分の良いことも受け入れがたいことも含めて、ありのままを受け入れるということです。たとえば、イライラしているときに、「自分はイライラしている」と認めて受け入れることで、その感情を和らげることができます。マインドフルネスにより、脳の疲労が減り、集中力の向上や多幸感を得る効果もあります。
セルフ・カインドネス(self-kindness):自分への優しさ
セルフ・カインドネスとは、失敗や困難な状況で自分を責めるのではなく、優しく接することです。たとえば、失敗や挫折を経験したとき、「同じ失敗をしないようにしよう」と、乗り越えようとする自分に対して、慈しみや励ましの言葉など支援的な反応を提供することです。
コモン・ヒューマニティ(common humanity):共通の人間性
コモン・ヒューマニティとは、誰しもが完ぺきではなく、自分と同様に失敗や挫折・困難を経験していると認識し、自分だけが苦労しているわけではないと理解することです。自分も他者も同じだと思えることを通じて、孤独感から解放されることを助けます。
セルフ・コンパッションと反対の状態
セルフ・コンパッションの「自分への優しさ」を、甘えやわがまま・自己愛や自尊心といった他の概念と混同される場合があります。セルフ・コンパッションは感情や思考をコントロールし、困難を乗り越えるためのエネルギーを生む必要があります。セルフ・コンパッションを理解するためには、それと対照的な状態も知ることが重要です。
セルフ・コンパッションと反対の状態 |
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過剰な同一化 |
自己批判 |
孤独感 |
過剰な同一化
過剰な同一化とは、過去や現在で経験した苦しい状況を、いつまでも悩み続け否定的な考えに支配された状態です。これにより、自分の感情にうとくなるだけでなく、客観的な視点を失い他者の感情の起伏にも気づけなくなってしまいます。その結果、円滑なコミュニケーションを取れなくなる可能性があります。
自己批判
自己批判は、失敗や問題に直面したときに自分を責めてしまい、「自分はダメな人間だ」「なんてバカなのだろう」と過度に非難してしまうことです。この状態が続くと、自尊心を低下させ、精神的な問題を引き起こす可能性があります。
孤独感
孤独感は、つらい状況に直面したとき他者とのつながりを感じられず、自分だけが苦しんでいると思い込み、苦痛や不安を生じることです。自分以外はつらい状況などなく幸せそうに思えてしまい、コモン・ヒューマニティの感覚を欠いている状況といえます。その結果、誰にも相談できず孤独感を強めてしまい、悪循環を生じてしまう可能性があります。
セルフ・コンパッションの効果
セルフ・コンパッションを実施することで、多くの心理的・身体的効果が期待できます。
セルフ・コンパッションの効果 |
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ウェルビーイングを高める |
前向きな思考になる:QOLの向上 |
心疾患の予防となる:レジリエンスの向上 |
ウェルビーイングを高める
ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に満たされた良い状態のことで、人生全般における満足感や幸福感を指す言葉です。一時的ではなく、良好な状態を維持するという特徴があります。
セルフ・コンパッションは、ネガティブな思考をポジティブに変えることができ、自己受容が高まるため幸福感も増し、精神的なバランスを保つ効果が期待できます。
前向きな思考になる:QOLの向上
QOL(Quality of life)とは、人生や生活・生命の質を表す言葉です。健康や心理状態だけでなく、自分の価値観や在り方、周囲の環境・将来の夢など多くの要素を含んでおり、これらをどう捉えるかという主観的な概念になります。
セルフ・コンパッションは、ネガティブな出来事もポジティブに捉える習慣が身につき、さまざまな場面で前向きな思考ができるようになるため、幸福感・満足感・充実感を得ることができます。
心疾患の予防となる:レジリエンスの向上
レジリエンス(Resilience)とは、困難な状況をしなやかに適応して回復する力(回復力・復元力・再起力など)を指します。
セルフ・コンパッションは、自分を受け入れ優しく接することで、精神的な回復力が高まり心疾患の予防にもつながります。心の健康が身体の健康に直結するため、精神的なレジリエンスは非常に重要です。
セルフ・コンパッションを高めるやり方
セルフ・コンパッションを高めるには、具体的な練習が有効です。以下のような方法があります。
慈悲の瞑想
慈悲の瞑想とは、自分や他者の幸せと、苦しみから解放されることを願う仏教伝来の瞑想法です。リラックスした体勢をとり、深呼吸をして目をつむり、以下の表にある4つの前向きな言葉を繰り返します。
慈悲の瞑想フレーズ |
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私が安全でありますように |
私が幸せでありますように |
私が健康でありますように |
私の悩み苦しみがなくなりますように |
はじめに、「私が幸せでありますように」と主語を「私」で繰り返します。気持ちが落ち着いたら、「大切な人が」「周囲の人が」「世界中の人が」と、他者の幸福を願うようにしましょう。定期的に瞑想を行うことで、心の安定とセルフ・コンパッションが向上します。
スージングタッチ
スージングタッチは、自分の身体に優しく触れることで安心感を得る方法です。手と手をあわせる・腕をさする・胸に手をあてる、愛する人を慈しみ抱きしめるように自分を抱きしめるなどです。これにより、自分への優しさと安らぎを体感し、内面から癒しを促進させます。
ジャーナリング
ジャーナリングは、自分の気持ちや考えを紙に書きだすことで、自己理解を深める方法です。日記や自分宛の手紙でもよいです。文章にすることで、自己批判的な思考パターンを識別し、改善することが可能になります。心の整理ができると不安やストレスの軽減をはかることができます。
リマインドペーパー
リマインドペーパーは、不安やつらい状況が起こったときに、セルフ・コンパッションを思い出すための手法です。対処法や自分にかける言葉などをメモし、身近なところに置いておくことで、日常的にセルフ・コンパッションを実施できます。不安や困難が急に生じたとき、対処できず不安を増幅させないための準備といえます。
MSCプログラムへの参加
MSCプログラムは、セルフ・コンパッションの意味・効果・やり方などを体系的に学べるトレーニングコースです。クリスティン・ネフ氏とクリストファー・ガーマー氏(セルフ・コンパッション研究の第一人者)が共同開発したプログラムです。参加することで、専門家から直接指導を受けることができます。
参考:MSC Japan 公式|MSCプログラム
セルフ・コンパッションの程度を測定する
セルフ・コンパッションの程度を測定するための、心理尺度が開発されています。ポジティブな側面「マインドフルネス・自分への優しさ・共通の人間性」とネガティブな側面「過剰同一化・自己批判・孤独感」の6つの構成から測定されます。これを利用することで、自分のセルフ・コンパッションレベルを客観的に評価し、必要な改善点を見つけることも可能です。
参考:Self-Compassion Circle|あなたのセルフ・コンパッションのレベルは?
セルフ・コンパッションの組織力への影響
セルフ・コンパッションを社員の健康管理に活用している企業が増えています。セルフ・コンパッションを組織に取り入れることで、職場環境の向上が期待できます。
良好な人間関係の構築
セルフ・コンパッションによって思考のコントロールができるので、組織内の人間関係を良好にできます。
自分と他者への理解が深まるため、同僚や部下との関係を改善し、職場のコミュニケーションがスムーズになります。これにより、協力的な職場環境が育まれます。
成長意欲の向上
セルフ・コンパッションをもつことで、失敗を恐れず意欲的に取り組めるようになります。スキルアップや難しい課題へも挑戦でき、業務へのモチベーションも上がります。その結果、組織全体のパフォーマンスや生産性の向上も期待できます。
リーダーシップ力の向上
セルフ・コンパッションは組織のリーダーにとっても重要です。自分だけでなく、相手に対しても思いやりや共感する姿勢を深めることで、チーム内の意見交換が容易になります。さらにリーダーは効率的な意思決定を行い、チームを前向きに導くことができます。これにより、良好なコミュニケーション・意欲的な発想・組織パフォーマンスの向上も可能です。
まとめ
セルフ・コンパッションは、自分と他者への深い理解と優しさをもたらす重要な概念です。この考え方を取り入れることで、日々のストレスに対処し、充実した生活を送ることができるようになります。
この記事を通じて、セルフ・コンパッションの基本を理解し、その実践方法を取り入れることで、皆さんの生活がより充実したものになることを願っています。