ジョブ型正社員(限定正社員)の特徴とメリット・デメリットを紹介
はじめに
- ジョブ型正社員とは、職務内容・勤務地・勤務時間を限定した正社員のこと
- 原則無期雇用のため、契約社員と比べて雇用の安定性が高い
- 勤務条件を限定により労働環境の変化が少なく、専門性の高い業務に就きやすい
- 無期転換ルールの対策や優秀な人材の確保など、企業のメリットも大きい
- 労務管理が煩雑になりやすく、人事制度の見直しが必要など、課題も残る
ジョブ型正社員(限定正社員)は、どのような雇用形態なのか、そもそもどういった制度なのか、疑問に思う人もいるでしょう。
この記事では、ジョブ型正社員制度の内容や正社員・契約社員との違い、制度を導入するメリット・デメリットなどをご紹介します。ジョブ型正社員制度への興味や、ジョブ型雇用を視野に入れている人は、ぜひご一読ください。
ジョブ型正社員(限定正社員)制度とは?
ジョブ型正社員制度とは、職務内容や勤務地、勤務時間などの条件を限定した範囲内で働く、限定正社員を雇用することを指します。この制度を利用すれば、本人や家族などに特別な事情があり、一般的な正社員が求められる条件で働きにくい場合でも、正社員として働くことが可能です。ジョブ型正社員は、働き方改革の一環である「多様な働き方」として、新しい選択肢の一つと言えます。また、パート・アルバイトなどの非正規雇用と正社員といった、働き方の二極化を緩和できる選択肢として、企業側からも注目されています。
正社員との違いは?
一般的な正社員は配置換えによる職務変更や、転勤などによる勤務地・勤務時間の変更などが起こることがあります。一方、ジョブ型正社員(限定正社員)は「職務・勤務地・勤務時間」などの条件で勤務範囲が限定されています。限定された条件の範囲内で働くため、基本的に労働環境の変化が起こりにくい、といった点が大きな違いと言えるでしょう。
無期雇用や福利厚生については、一般的な正社員とジョブ型正社員に変わりはありませんが、昇給・賞与・昇進などの待遇は企業によって差がある可能性はあります。前もって確認しておくといいでしょう。
契約社員との違いは?
ジョブ型正社員と契約社員の大きな違いは、雇用期間です。ジョブ型正社員は基本的に無期雇用ですが、契約社員は有期雇用です。雇用期間は、原則で最長3年と決められているため、契約期間の満了前には更新か終了かを選択する必要があります。
ただし、契約社員として5年以上働いている場合は『無期転換ルール』が適用されます。『無期転換ルール』とは2013年4月1日から施行された労働契約法で、契約期間が1年の場合に5回目の更新後1年間(3年の場合は1回目の更新後の3年間)に申し込むことで無期雇用契約へ転換できる、といった内容です。無期雇用へ転換した場合、契約内容や雇用形態の変化があるかどうかは企業によって違いますので、無期雇用を望む場合は確認しておくことが重要です。
ジョブ型正社員(限定正社員)の雇用形態とは?
ジョブ型正社員(限定正社員)の主な限定条件は「職務」「勤務地」「勤務時間」の3つがあり、この中から一つまたは複数を掛け合わせた条件を設定することが可能です。主な条件から、雇用形態は以下の3種類に分けられます。
- 職務限定正社員
- 勤務地限定正社員
- 勤務時間限定正社員
ここからは、条件である「職務」「勤務地」「勤務時間」の内容について、ご紹介していきます。
職務限定正社員
職務内容を限定している場合は「職務(職種)限定正社員」と呼ばれます。専門性の高い分野に精通した人材募集や、外部からプロフェッショナルを招致したい場合に活用されます。
活かせる分野は偏るものの、特定の分野で生産性を高めることが可能です。医療・福祉や教育、IT関連など、職務や資格の有無で業務を分けやすい業界が活用する傾向にあります。これまで培った経験やスキルを活かしたい人、得意なことを活かして働きたい人に向いているでしょう。
勤務地限定正社員
勤務する地域を限定している場合は「勤務地限定正社員」と呼ばれます。この働き方では、企業によって限定できる範囲が異なり、異動がまったくないケースや、転居を伴わない範囲での異動があるケースなどさまざまです。
人手不足の昨今、働ける人材を確保するため、多くの業界で採用され始めています。地元で働きたい人や、子育て・介護などで住居を移したくない人にとって向いているでしょう。
勤務時間限定正社員
働く時間を限定している場合は「勤務時間限定正社員」と呼ばれます。多く活用されている限定範囲は以下の3つです。
- 勤務時間:勤務時間が一般的な正社員よりも短い
- 勤務日数:勤務日数が一般的な正社員よりも少ない
- 残業等免除:時間外労働や残業が免除される
優秀な人材を手放したくない企業で採用される傾向が高く、人手不足の解決策として幅広い業界で活用されています。子育て・介護と仕事を両立しながら働きたい人や、副業・ボランティア活動と両立したい人などには、最適な働き方とも言えるでしょう。
企業がジョブ型正社員(限定正社員)制度を導入する理由
ジョブ型正社員制度を企業が導入する大きな理由として「多様な働き方」を認めることで、人材を確保する狙いがあります。他にも、以下のような要因が挙げられます。
- 働き方の多様化
- 専門性の高い人材の不足
- 慢性的な人手不足解消
- 終身雇用制度の限界と対策
企業は多様な人材を確保するために「多様な働き方」を認め、柔軟な雇用形態の一つとしてジョブ型正社員制度の導入を進めています。この制度は従業員のワークライフバランスを保つ方法としても有効であり、人件費をより効率的に管理できます。また、従来の雇用形態では採用が難しかった子育て・介護中の人材、事情があって遠方住まいとなった人材などを、積極的に採用することもできるでしょう。
メリット
ジョブ型正社員制度の導入には、先にもご紹介した内容のようにさまざまな理由・要因があります。導入した場合に企業が得られるメリットで、主なものが以下の3点です。
- 無期転換ルールの対応策にできる
企業は『無期転換ルール』に従って、該当する有期雇用の従業員を無期雇用へ転換する義務がある。その際、ジョブ型正社員制度を活用して、職務内容・勤務地・勤務時間などを限定することで、条件が厳しい場合でも正社員として雇用できる。
- 優秀な人材の確保・採用がしやすい
ジョブ型正社員であれば、一般的な正社員として働くことが難しくなった人でも雇用できる。同様に、条件さえ合えば復職したい人材の受け皿にもできる。さまざまな理由で条件がある場合でも雇用できるため、優秀な人材も確保・採用が可能。
- 突発的な欠員補充がしやすい
ジョブ型正社員制度を活用すれば、突発的に欠員が出てしまった場合でも、専門知識を持った優秀な人材の募集・採用ができるため、欠員補充がしやすい。職務内容や勤務地、勤務時間といった条件が明確であれば、求職者側も応募しやすいメリットに。ただし、求める条件が厳しすぎると、応募者がいなかったりマッチングしづらくなったりするので要注意。
他にもワークライフバランスの推進貢献や、採用のミスマッチ軽減、グローバル化への対策など、さまざまなメリットがあります。ジョブ型正社員制度を有効活用することで、企業が抱えていた問題・課題解決につなげられるでしょう。
デメリット
ジョブ型正社員制度の導入に多くのメリットがある一方で、いくつかの注意点、デメリットが存在します。企業ごとに課題は異なりますが、主なデメリットを3つご紹介します。
- 労務管理が煩雑になる
ジョブ型正社員制度を導入する際は、制度を利用する一人ひとりに合わせ、限定内容を決めて契約する必要がある。ジョブ型正社員用の雇用管理が追加されるため、条件ごとの管理で労務管理自体が煩雑化しやすい。元から複数の雇用形態がある場合、管理担当者の負荷が大きくなる可能性もある。
- 人事制度の見直しが必要になる
ジョブ型正社員は、職務内容や勤務時間などが限定的であるため、人事評価制度がジョブ型正社員制度と合っていないと、正社員・ジョブ型正社員の双方から不公平感が出てくる可能性も考えられる。ジョブ型正社員制度を活用するためには、従業員に不公平感を抱かせないほどの透明性が高い人事評価制度を導入することが重要。
- 配置転換がしにくい
一部の部署で人員が欠けてしまい配置転換を行う場合、一般的な正社員であれば何の問題もないが、ジョブ型正社員には職務内容や勤務地などの配慮が必要になる。突発的な事態があった際に配置転換しづらく、制度への理解が低い場合は部署内での不公平感につながる可能性がある。
デメリットとしてご紹介しましたが、制度の見直し次第では解決可能なものもあります。企業全体で「ジョブ型正社員制度」の理解を深め、多様な働き方や多様な人材を活用につなげていくことが、導入における課題解決の近道かもしれません。
ジョブ型正社員(限定正社員)制度のメリット・デメリット
前項では、企業側から見た「ジョブ型正社員制度」のメリット・デメリットをご紹介しました。ここからは従業員側、働く側から見たメリット・デメリットをご紹介します。
メリット
「ジョブ型正社員制度」が利用可能であれば、さまざまな理由によって正社員を諦めていた人や、働くことが難しく悩んでいた人など、多くの人にとって、大きなメリットとなるでしょう。その中でも明確にメリットと言えるものを3つ、ご紹介します。
- 安定して働けるため家庭と両立しやすい
ジョブ型正社員は、基本的に無期雇用。子育て・介護など家庭の事情があり転勤や勤務時間など、一般的な正社員として働くことが難しい人であっても安定して働くことが可能。契約社員やパート・アルバイトなどの非正規雇用で働くのと比べても、給与面や充実した福利厚生が受けられる点は大きなメリット。
- 得意分野やスキルを活かしやすい
ジョブ型正社員として働くことで、得意分野の知識やスキルを活かして、専門性の高い業務に就くことが可能。子育て・介護などで仕事を辞めたりせずに働き続けられるため、長期的に安定した雇用が得られ、スキルアップできる可能性もある。
- 成果によって評価を受けられる
ジョブ型正社員は契約時に定めた条件で働くため、給与は保持するスキルや業務の難易度・成果によって決まる。高いスキルを活用して成果が出せれば評価されるため、年齢や性別は関係ない。貢献・成果が正当に評価されれば、仕事へのモチベーションにつながる。
ご紹介した3つ以外にも、ワークライフバランスの実現や就職後のミスマッチ低減、特定分野のスペシャリストを目指せるなど、多くのメリットがあります。
デメリット
ジョブ型正社員として働くことは、安定的な雇用などメリットが多くある一方で、デメリットも存在します。大きなデメリットに感じる可能性が高い点を3つ、ご紹介します。
- 無限定正社員よりも給与が低くなりやすい
ジョブ型正社員は無限定正社員、つまり一般的な正社員と比べて、給与が低くなりやすい。成果で評価されても、昇進スピードが落ちる場合もあり、企業によって正社員との格差がある可能性も。正当に評価できる人事制度があるかの確認が大切。
- 業務量が労働時間・給与に見合わない場合がある
業務量と労働時間がアンバランスになる可能性に注意。短時間正社員の契約に対して締め切りに余裕のない指示や、給与に見合わない量の業務を任されるなど、実際の現場で起きている事例がある。一人で抱え込まないよう、対処方法を保険代わりに確認しておくのも一つの手段。
- 職務や勤務地が無くなる場合がある
職務内容を限定、または勤務地を限定した契約の場合、該当職務の廃止や勤務地の消滅などにより、仕事そのものを失う可能性がある。一般的な正社員であれば異動で解決できるが、ジョブ型正社員の場合は解雇対象となりやすい。
まとめ
ジョブ型正社員(限定正社員)制度は、職務内容や勤務地、勤務時間を限定した範囲で働く、正社員の新たな雇用形態です。この制度は、さまざまな理由で一般的な正社員として働くことが難しかった人も、正社員として働くことを可能にします。パート・アルバイトや契約社員などの非正規雇用と比べて、安定した雇用や福利厚生が受けられる点はメリットと言えるでしょう。
ただし、限定条件の範囲で業務にあたるため、一般的な正社員よりも給与が低くなる可能性や、昇給・昇進の機会に差が出るといった可能性があります。限定条件の設定範囲によっては、デメリットと感じない場合もあります。必要に応じて、ジョブ型正社員制度を有効活用してみてはいかがでしょうか。