社会保険料の計算方法は?負担額・注意点を解説
はじめに
- 社会保険は健康・厚生年金・介護・雇用・労災の5つの保険制度で構成されている
- 社会保険料は標準報酬月額や標準賞与額といった計算基準から算出される
- 狭義の社会保険と呼ばれる健康・介護・厚生年金の保険料は定時決定で定められる
- 労働保険と呼ばれる雇用保険と労災保険は年度更新によって定められる
- 社会保険には収入や状況に応じて保険料の負担を軽減する制度もある
給与明細を見るたびに控除される社会保険料の金額に頭を抱える人も多いでしょう。社会保険料は私たちの生活と密接にかかわる社会保障制度の一部ですが、複数の保険制度が包括されるため、保険料の計算方法は複雑ですし金額も少なくありません。この記事では、社会保険が包括する各種の保険料がどのように計算されるのか、その仕組みと注意点をわかりやすく解説します。
社会保険とは
社会保険とは、健康・厚生年金・介護・雇用・労災の5つが一体になった保険制度であり、社会活動を営む上での重要な公的保険です。社会保険の保険料は給与から控除(天引き)して支払われます。
社会保険を構成する5つの制度
社会保険は5つの保険制度が一体になっており、保険料も合わせて計算されます。以下の表では、各種保険制度の補償内容と負担率について解説します。
保険の種類 | 補償内容 | 支払いの割合 |
---|---|---|
健康保険 | ケガや病気で使う医療保険。窓口での支払いが3割負担になる制度 | 労使折半(従業員の支払いは50%) |
厚生年金保険 | 老齢、障害、遺族ら各年金につながる保険制度 | 労使折半(従業員の支払いは50%) |
介護保険 (40歳以上※) | 老齢期や障害を負った際の介護につながる保険制度 | 労使折半(従業員の支払いは50%) |
雇用保険 | 失業時の給付金や職業訓練につながる保険制度 | 労使で分担(業種により割合が異なる) |
労災保険 | 仕事上で負ったケガや病気を補償する保険制度 | 全額事業主が負担 |
※介護保険は40~64歳が2号被保険者、65歳以上が1号被保険者になります。
社会保険料の計算基準
社会保険料の計算には、標準報酬月額や標準賞与額といった計算基準の算定が伴います。この項目では、保険料計算の基礎となる数値について、これらがどのように定められ、更新されるのかを解説します。
標準報酬月額の算定方法
標準報酬月額とは月々の給与を合算して平均額を割り出したものです。社会保険料を計算する基準として毎年4~6月の3か月分の給与をもとに算定します。この処理を定時決定といって、健康保険料は1~50の等級に、厚生年金は1~32の等級に区分して保険料が決まります。
標準賞与額の算定方法
標準賞与額とは、税引き前の賞与総額から千円未満を切り捨てた金額です。これに基づいて健康・介護・厚生年金・雇用・労災の各保険料を算出して支払います。標準賞与として扱われる賞与は支給回数が年3回以内のものです。年4回以上支給される賞与は報酬として扱われ、標準報酬月額に反映されます。
また標準賞与額には上限があり、健康保険は年間累計573万円となり、厚生年金保険は1か月あたり150万円が上限となります。
参考|協会けんぽ 賞与の範囲
健康保険・厚生年金保険・介護保険の保険料
社会保険のうち健康・介護・厚生年金までは狭義の社会保険と呼ばれ、その保険料は標準報酬月額から算出されます。以下では、実際に健康・厚生年金・介護保険それぞれの保険料について、具体的な計算を交えて解説します。
社会保険料の計算方法
標準報酬月額を26万円とした場合、健康・介護・厚生年金それぞれの等級と支払う保険料がいくらになるかを、シミュレーションとその結果から見てみましょう。料率は協会けんぽによる「令和6年3月分からの保険料額表(東京)」から算出しています。
参照|協会けんぽ 令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)
標準報酬等級 | 標準報酬月額 | 報酬月額(給与の金額) |
---|---|---|
20(17)※ | 260,000円 | 250,000円以上~270,000円未満 |
※( )内の数字は厚生年金保険の標準報酬月額等級です。
健康保険料(介護保険料なし)の料率 9.98% |
健康保険料(介護保険料あり)の料率 11.58% |
厚生年金保険料の料率 18.30% | |||
---|---|---|---|---|---|
全額 | 折半額※ | 全額 | 折半額※ | 全額 | 折半額※ |
25,948円 | 12,974円 | 30,108円 | 15,054円 | 47,580円 | 23,790円 |
※社会保険は労使折半のため従業員が支払う保険料は折半後の金額になります。
雇用保険と労災保険の保険料
社会保険料のうち雇用保険と労災保険および一般拠出金※を指して労働保険といいます。この保険料は、1年間の賃金の合計額に保険料率を掛けた金額です。雇用保険料は労使間の負担率が業種によって異なり、労災保険と一般拠出金は事業主側が全額負担します。以下では、実際に雇用と労災の保険料について、具体的な計算を交えて解説します。
※一般拠出金とは、石綿による健康被害の救済に関する法律により、労働保険に加入する事業主すべてが負担するものです。
労働保険料の計算方法
労働保険のうち雇用保険料を、1年間の賃金合計を400万円と仮定したシミュレーションから見てみましょう。料率は以下の図、厚生労働省が定める「令和6年度の雇用保険料率について(一般の事業)」を参照して算出します。
引用|厚生労働省 令和6年度の雇用保険料率について(PDF)より
1年間の賃金合計を400万円と仮定して厚労省が定めた料率を当てはめると、従業員による雇用保険料は年間で24,000円となります。
労働者負担 | 事業主負担 | 雇用保険料率 |
---|---|---|
0.60% | 0.95% | 1.55% |
24,000円 | 38,000円 | 62,000円 |
労災保険料の料率は、さらに業種ごとに細分されますが、全額事業主の負担となるため従業員の支払いはありません。
社会保険料を計算する際の注意点
社会保険料の計算には非課税限度額や年度更新時の変更点など、いくつかの注意点があります。この項目では、社会保険料の計算に関する疑問や誤解をクリアにするために、注意点とその回答を解説します。
社会保険の扶養控除(130万円の壁)
社会保険には扶養控除の制度があります。社会保険の扶養控除とは、扶養親族や配偶者の年間給与収入が130万円以下であるとき、世帯主などの健康保険や厚生年金保険に被扶養者として加えられる制度です。この制度は通称「130万円の壁」などと呼ばれます。
参考|協会けんぽ 扶養者とは?
所得税の扶養控除(103万円の壁)
社会保険とは異なりますが所得税にも扶養控除の仕組みがあります。所得税の扶養控除とは、被扶養者や配偶者の年間給与収入が103万円以下の場合、世帯主などの被保険者が一定金額の所得控除を受けられる制度です。これがいわゆる103万円の壁と呼ばれる仕組みです。
社会保険料は定時決定で定められる
狭義の社会保険と呼ばれる、健康・介護・厚生年金の各保険は4~6月の給与額をもとに標準報酬月額が算定され、それぞれの保険料が決まります。この手続きを定時決定といい、毎年7月10日までと申告期限が定められています。
後述する労働保険(雇用保険と労災保険)と更新時期は同じですが、算出方法が異なる点に注意が必要です。
労働保険料は年度更新で定められる
労働保険と呼ばれる、雇用保険と労災保険および一般拠出金は前年4月1日〜3月31日まで、1年間の給与収入から向こう1年間に発生する概算の保険料を算定します。この手続きが労働保険の年度更新です。
この手続きも健康・介護・厚生年金保険と同じく毎年7月10日までと申告期限が定められています。
社会保険料の負担を軽減する制度
社会保険には保険料の負担を軽減する手続きも存在します。以下に代表的な制度として2つ、随時改定と産休・育休中の保険料免除について解説します。
保険料が高い場合は随時改定を申し出る
社会保険料の負担が大きすぎると感じたら、まずは定時決定で算出された標準報酬月額や標準賞与額、保険料率が正しいかを確認してください。その際には担当部署に誤りがないかを確認することも大切です。
もし給与に変動があり、社会保険料の負担が大きくなっている場合などは、担当部署を通じて社会保険料の改定を求められます。この制度を随時改定といいます。
産休・育休中の社会保険料免除について
社会保険には産休および育児休業中の保険料が免除になる制度も存在します。令和4年10月に免除要件が改正されましたので、現在の免除条件について以下の表にまとめました。
給与にかかる 社会保険料の免除 |
(月をまたぐ産休・育休であれば)休業開始日の属する月から終了日の翌日が属する月の前月まで、社会保険料が免除される |
---|---|
(同一月内の産休・育休でも)休業開始日の属する月内に14日以上休業を取得した際、当該月の社会保険料が免除される | |
賞与にかかる 社会保険料の免除 | 賞与を受け取った月の末日を含め、連続して1か月超の産休および育児休業を取得した場合に限り、社会保険料が免除される |
まとめ
社会保険は私たちの健康や老後の生活を守るために重要な役割を果たしています。本稿ではその仕組みと保険料の計算方法について解説しました。
社会保険料を算出する仕組みは複雑ですが、注意点だけでなく負担を軽減する制度も存在します。疑問があれば人事部や経理部などの専門家に相談してください。
本稿が給与控除の理解や将来的な保障を読み解く助けになれば幸いです。