退職代行サービスとは?料金やトラブル事例を解説
はじめに
- 退職代行サービスは「民間企業」「労働組合」「弁護士」3つに分かれる
- 運営元によってサービス内容と相場価格が異なる
- 訴訟や賠償金などの内容は弁護士に依頼をする
- 返金保証があるかキャンセルポリシーで確認する
「退職」にはさまざまな背景や事情があります。退職届は用意したものの、何らかの理由でどうしても退職することを言い出せないケースもあるのではないでしょうか? 最近ではさまざまな事情により、「退職代行サービス」を利用することで退職を可能にするケースが増えています。しかし、退職代行サービスにはさまざまな形態があり、どれを利用したらいいのか? デメリットやトラブルがないか不安に感じる方もいらっしゃるかと思います。
円満に退職ができるよう、まず退職代行サービスを利用する前にぜひ本記事を役立ててください。
退職代行サービスとは?
「退職代行サービス」とは、労働者に代わって勤務先へ退職の意向を伝えてくれる支援サービスのことです。たとえば退職の意思を伝えたのにも関わらず、辞めさせてくれないといった悩みに対して、代理業者が勤務先に退職の意向を伝えてくれます。退職代行サービスの運営元は民間・労働組合・弁護士の3つがあります。それぞれの運営元で対応できるサービスが異なるため、退職理由の内容によって依頼先を選ぶ必要があります。
ただし、退職理由によって「交渉」の必要性が出る場合は労働組合や弁護士が運営するサービスに依頼するようにしましょう。
退職代行サービスの形態と代行範囲 | |
---|---|
民間企業 | ・本人の代理で勤務先へ退職の意向を伝達してくれる ・給料や有給消化などの交渉は不可能 |
労働組合 | ・退職届の受入れや拒否時の対応 ・退職金・未払い賃金の支払交渉 ・有給休暇消化の交渉 ・離職票の発行依頼など |
弁護士事務所 | ・勤務先から損害賠償請求された場合の対応 ・未払い賃金や残業代に対する支払請求 ・本人へのハラスメントに対する慰謝料請求など |
退職代行サービスが増えている理由
おおよそ10年前から退職代行サービスが運営されるようになり、現在では民間企業・労働組合・弁護士の3つに分かれた代行サービスが増えています。同時に会社と直接やりとりをしなくても良いという理由から、料金を払ってでも利用したいという人も増えてきました。ではなぜ、このような退職代行サービスが続々と生まれているのかその理由や背景について、以下で説明します。
1.上司によるパワハラ・同僚によるいじめ
日常的に上司から高圧的に叱責されたり、同僚から人格否定や嫌がらせを受けたりするケースです。このような理由から畏縮してしまう上に、なかなか自分から退職の意向を伝えられないため、退職代行サービスを利用する人が増えています。
2.引継ぎが終わるまで退職が許可されない
業務が属人化にしてしまっているために、膨大な量のマニュアルを作らなければならない、あるいは後任の採用が決まるまでは退職を認めてもらえないといったケースです。このような理由からあきらめざるを得ない状況に追い込まれ、退職したい時期に退職するタイミングを逃がしてしまい、退職代行サービスを利用する人が増えています。
3.上司からの強引な引き止め
退職を申し入れたのにも関わらず、受理してもらえないばかりか退職を考え直すよう促されるケースです。退職願いを保留される上に、「退職理由となる原因を改善する」または「時間をかけて考え直してほしい」などと、俗にいう「慰留ハラスメント」を受けてしまうことも少なくありません。企業側が退職を引き留めてしまう背景には、人を辞めさせてしまったという理由で評価や業務に影響を出してしまうことが挙げられます。
サービス利用時の流れや料金
いざ、退職代行サービスを利用したいと決めた時に、ふと、退職するまでにどのような流れなのか料金はいくらになるのか、気になるかと思います。次のステップに進むために、まずは利用時の流れと内容を把握しておくと安心です。以下で相談から完了までの流れを説明します。
1.退職代行サービスへ相談
まず、退職できない理由を洗い出し、何を依頼したいのかを整理しておきましょう。内容に合わせて民間企業か労働組合か、もしくは弁護士のどれかに相談するかを決めます。気になる退職代行サービスの候補をいくつか決めたら、問い合わせてみましょう。
2.本契約を申し込む
相談したいところが決定したら、個人情報や打ち合わせの日時の他に退職に関する希望などを代行業者に共有します。その後、退職代行サービスとの本契約を締結し、本格的に退職に向けて準備がスタートします。
本契約で共有する内容 | |
---|---|
個人情報 | ・氏名 ・生年月日 ・現住所 ・電話番号/メールアドレス |
所属先情報 | ・勤務先の社名/所属部署名 ・電話番号/メールアドレス ・勤務先住所 ・連絡してほしい相手の氏名 |
退職に関する希望 | ・希望退職日 ・有給休暇残数の消化 ・離職票や退職に関する書類 ・備品・私物の受取りや返却 ・給料や退職金の未払い ・訴訟や賠償金 |
3.退職代行費用の支払い
本契約を交わしたのち、代行費用の支払いをします。代行費用の支払い方法としては、前払い制がほとんどです。銀行振り込みの場合、時間帯や曜日によっては翌営業日にならないと、代行業者が入金を確認できない場合があります。そういったケースで打ち合わせもおろか退職の日にちも延びてしまいます。即時決済が可能なPayPayや電子マネーなどのキャッシュレス決済を選択すれば、その後の支払いも大変スムーズです。
4.代行業者との打ち合わせ
ここからさらに詳細の内容を代行業者と打ち合わせをします。ヒアリングシートを用いて、メールで代行業者とやりとりをするのが一般的です。退職の際に必要な個人・会社の情報は、正確に記入するようにしましょう。正確に記入しないと退職するまでに時間がかかってしまう恐れもあるため、注意する必要があります。
5.業者が代理で退職を伝える
打ち合わせの際に伝えた情報をもとに代行業者が直接、会社へ退職の意向を連絡します。
退職代行サービスの運営元によって、退職日の他に残りの有給休暇消化や未払い賃金の支払いなど、依頼内容に合わせて交渉を行ないます。退職の意向を連絡してから手続きが完了するまでの期間は依頼内容によってさまざまです。
退職代行を利用するメリットデメリット
いざ退職を決めたものの、退職代行サービスを利用する上でどのようなメリットやデメリットがあるのか気になるところでしょう。以下でそれぞれ説明していきますので、しっかり理解した上で利用するかどうかを検討してください。
メリット
退職代行サービスを利用することで、いくつかメリットを得られます。数あるメリットの中から3つ抜粋して紹介しますので、参考にしてみてください。
勤務先の人とのやり取りが不要
退職を申し入れるには、自分からその意向を伝えた上で上司と話し合うことが一般的ですが、さまざまな事情で退職意向を伝えることが難しい場合もあるでしょう。本人の代わりに代行業者が一切を請け負い、会社へ伝えることで心理的負担を軽減できるメリットがあります。
いつまでも辞められずにいるよりは、第三者に依頼することで次のステップへ踏み出せるでしょう。
弁護士にトラブル解決してもらえる
交渉中に退職届受理を拒否または有給取得も認められなかった場合や、交渉後に会社から損害賠償を請求された場合などのトラブルが発生することもあります。もし、退職代行サービスの範ちゅうを超える場合は民間企業や労働組合ではなく弁護士に相談するのがベストです。
たとえば法的手段を取ると脅された場合は弁護士運営のサービスであれば労働基準法に則り、万事解決してもらえるでしょう。
すぐ退職手続きが完了できる
どのような規模の企業やブラック企業でも法律上で定められた民法627条第1項に則り、解約の申し入れ日から14日間で退職できます。勤務先の就業規則で「退職を申し出る場合は1か月前に届け出ること」と取り決めていても、民法優先されることで即退職が可能なのです。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる。この場合において、雇用は解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。
引用元:厚生労働省|労働政策審議会労働条件分科会 第49回資料
デメリット
一方でデメリットもいくつかあります。以下で紹介するデメリットをよく理解しておくことで、上手に退職代行サービスを利用できるようにしましょう。
代行料金がかかる
退職代行サービスの料金は、おおよそ3万~5万円が相場とされています。自分で退職を申し入れられる環境であれば、払わずに済む費用です。どうしても申し入れられない場合の利用には、代行料金がかかることを念頭に置いておきましょう。
詐欺業者による被害に遭う可能性がある
退職代行サービスを利用する人が増えたことで、悪質な詐欺業者による被害も見られています。たとえば料金を支払ったのに実行されず、連絡が取れなくなるケースです。ネットで口コミやサービスの評判をチェックし、自分の状況と照らし合わせて、実績が豊富で信頼できる退職代行サービスを選びましょう。
簡単に退職する癖がついてしまう
料金さえ払えば、次も簡単に代行を利用できるので、都合が悪ければ退職するという癖がついてしまうケースです。「辞め癖」「逃げ癖」がついてしまうと、自身の履歴書に傷がついてしまいかねません。転職の数を重ねるほど、採用担当者は「また辞められるのでは……」と不安になり、履歴書を読んだだけで不合格としてしまう場合もあります。退職の重みをよく考え、どうしても自分の力では解決しない場合のみ利用するようにすると良いでしょう。
上手な退職代行選びで失敗を防ごう
悪質業者を選んでしまったがために、トラブルに遭っても泣き寝入りせざるを得ないケースもあります。痛い目に遭わないように退職代行サービスを上手に選ぶことは重要です。代行業者を決める前にどのようなトラブルの事例があるかを理解して、慎重に選ぶようにしましょう。
よくあるトラブル事例
思わぬトラブルに巻き込まれることで頭を抱えているケースが後を絶ちません。以下でどのようなトラブルが実際に起こっているのか、4つに分けて紹介します。
勤務先から直接電話がかかってくる
退職代行サービスの業者から企業に退職の意向を伝えたのにも関わらず、会社が本人に直接連絡を取ろうとしてくるケースがあります。電話がかかってくる理由として以下の3つが挙げられます。
- 退職の意思が事実であるか確認するため
- 退職を思いとどまらせるため
- 退職手続きに関する連絡事項のため
退職の意思については退職届で確認できるため、会社からの電話に応じる必要はありません。また退職手続きに関する連絡事項や会社から退職を思いとどまらせる目的で、執ように電話がかかってくるようであれば、代行業者に相談しましょう。
一方的に懲戒解雇されてしまう
従業員が退職代行サービスを利用したという理由で、懲戒解雇を言い渡されてしまうケースです。しかし、懲戒解雇は「退職代行サービスを利用する場合に懲戒解雇の対象になる」と就業規則に記されていない限り、労働基準監督署から認められることはありません。
懲戒解雇に当てはまらないのに退職金が支払われない、離職票に「重責解雇」の記載があるなど不当な扱いを受けている場合は、弁護士等に依頼して会社へ解雇理由証明書発行をしてもらい、懲戒解雇撤回を求める書面送付などの対応が必要です。
離職票が発行されない
本来、退職後は必ず離職票を受け取るものですが、退職代行サービスを利用したことで、離職票が発行されないといったケースです。肝心の離職票を発行してもらわないと失業手当も受けられないばかりか、就職活動もできません。自分で会社に問い合わせしにくい場合は代行業者に依頼し、離職票を郵送してもらうようにしましょう。
追加料金が発生してしまう
運営元のサービス体系によっては、追加料金が発生することがあります。たとえば、労働組合運営の退職代行サービスの場合、代行依頼するのに加入料が必要です。また残業代や未払い給与などの請求についても追加で費用が発生することもあるので、事前に追加料金がかからないかを確認すると安心でしょう。
利用時の注意点
事前にどこまで対応してくれるのか確認する必要があるでしょう。どのようなことに注意して、退職代行サービスを利用すればいいのかについて以下の章で参考にしてください。
非弁問題に巻き込まれる
民間企業の代行業者が弁護士の資格を所持していないのにも関わらず、弁護士法違反を起こす悪質な業者も存在します。交渉権がないのに示談交渉や法律に関わる相談などの行為を行なった場合は、2年以下の懲役または300万以下の罰金刑に課され、退職代行サービスを依頼した側も非弁問題に巻き込まれてしまいます。代行業者に連絡が取れず、その上退職までの契約も遂行されないまま、結局は損する羽目に陥ってしまう場合もあるので注意しましょう。
私物の受け取り・会社備品の返却
社内に残っている私物の受け取りについて、郵送依頼してくれるかを確認しましょう。もし、退職を決めている場合、可能な範囲で事前にまとめておくと安心です。
ただし、会社備品についてはかならず返却するようにしましょう。返却しないと、横領罪や器物破損という罪に問われかねないため、注意する必要があります。
キャンセルポリシーで返金保証をチェックする
どのタイミングからキャンセル費用が発生するのか? どの割合で費用が発生するのかについてあらかじめ、キャンセルポリシーでチェックしてから契約するようにしましょう。万が一、代行に失敗した場合、無駄な出費になりかねません。返金保証の有無や後払いなどを事前に確認しておくことは重要なポイントです。
ただし、依頼実行中に自身の都合によるキャンセルをする場合、満額返金は難しいでしょう。
運営元と相場価格をチェックする
運営業者 | 代行料金の相場 |
---|---|
民間企業 | 1万円から5万円 |
労働組合 | 2万5千円から3万円 |
弁護士 | 5万円から10万円 |
運営元によって価格は相場が異なるため、質と料金が適切であるかどうかを確認して選びましょう。法定トラブルに応じて交渉権があるかどうかもチェックポイントのひとつです。また退職代行サービスを利用する上で料金を安く抑えたい人もいますが、相場価格よりも安すぎるところはオプションによる追加料金を取られたり、退職に失敗したりする場合があります。安く済ませたいのであれば、労働組合を利用するのもひとつの手でしょう。
まとめ
退職代行サービスについて理解できたでしょうか?運営元によって対応できる内容と料金ともに異なりますが、何よりも注目するのはやはり交渉権があるかどうかが重要です。代行依頼する側が非弁問題に巻き込まれないよう、相談の際に細かく確認しておきましょう。自分の状況を整理して、自分に合った運営の退職代行サービスを賢く選んで利用してください。