コラム

2024.06.05

人事システムやERP導入に向けた、人事とHR基礎知識

人事システムやERP導入に向けた、人事とHR基礎知識

はじめに

人事業務を効率化するため、多くの企業が「人事システム」や「HRテック」と呼ばれるツールを活用、または導入を検討しています。しかしこれらのツールは多機能であり、導入を成功させるためには、機能や運用についての知識が不可欠です。
そこで本記事では、「人事」と「HR(Human Resources)」という2つのキーワードに着目して人事システムについて解説します。

人事システムとは

人事システム、または人事管理システムとは従業員データを一元管理し、「採用」や「入社と退職」「人事評価」だけでなく、「勤怠管理」や「給与計算」、「労務管理」など多岐にわたる業務をサポートする製品です。
近年では、企業の経営資産である人材を戦略的に活用するという考え方が普及し、従業員のタレントマネジメント機能をもつ製品が多く登場しています。また人事には給与計算や勤怠管理といった基幹業務が含まれるため、基幹業務を一元管理するERP(Enterprise Resources Planning)という製品で人事業務をデジタル化する方法もあります。ERPは従業員に関するデータだけでなく在庫管理や会計や販売などのデータを一元管理できるため、ほかの基幹業務データと一緒に管理や分析しやすい点が強みです。ERPにも「人事評価」や「タレントマネジメント」の機能を備えている製品があり、これらの製品の境界線はユーザの利便性の追求によって次第に曖昧になってきているといえます。

人事管理をデジタル化する際には、「人事システム」と呼ばれる製品だけではなく、人事に関連する機能をもつさまざまな製品について検討したほうがよいでしょう。ほかの基幹業務のデジタル化やDXも視野に入れて製品選びを進めることが大切です。

「人事管理」から「HR」へ

人事システムは、HRテック(Human Resources Technology)やHR系システムとも呼ばれます。人事はこの100年で大きく変化しており、HRという考え方の登場や、人事業務の範囲拡大が起こりました。そのため、人事システムやERPといった製品を導入する際には、まず人事やHRについての理解を深めた後で、求める機能について検討するのが効果的です。

HRという考え方はアメリカで生み出されたため、アメリカの人事に関する歴史的な変化から、HRとは何なのかを見ていきましょう。

「人事部」と「労務管理」中心の時代

1900年代初頭には似ていた日本とアメリカにおける雇用制度は、1930年代から1980年代にかけて別方向に進み、異なる形で発展しました。
アメリカの雇用者と従業員の関係は、1930年代に起こった世界恐慌を契機に大きく変わります。年を追って深刻化した恐慌の影響で解雇が増え、短期間雇用や非正規雇用の割合が増加した結果、頻繁に転職する前提で賃金設定や人材配置が考えられるようになりました。一方、日本では戦後の経済成長の時期に「終身雇用」や「年功序列」が慣習として定着しました。
そのためアメリカとは従業員の教育や給与面で大きな違いが生まれましたが、1980年代までは両国ともに、採用や給与計算といった「人事部」の事務処理が人事業務の中心でした。

1930~1980年代にかけて形作られた両国の雇用の特徴
日本 アメリカ
雇用期間 長期、終身雇用 短期、転職前提
雇用形態 正社員が中心 非正規社員も多い
報酬 年齢や勤続年数の影響が大きい スキルや成果の影響が大きい
教育 OJT中心 企業外機関を利用した自己研鑽
人材配置 緩い分業、ローテーション 厳格な分業

HRという考え方の登場

1980年代のアメリカ企業は生産性と国際競争力の低下に苦しんでおり、学者は成功している日本企業の「雇用者と従業員の関係」に注目して、HR(人的資源)やHRM(人的資源管理)という考え方を発展させました。人的資源管理(HRM)は1950年代から1960年代にかけて経済学の分野で生まれた人的資本(human capital)論を源流としており、従業員を企業経営にとっての資産だと捉える考え方です。人的資源を効果的に活用するために、以後さまざまな具体的手法が検討されていきます。
また経済学や経営学といった分野以外でも、単純な効率化ではなく従業員の心理と成果の関係について研究が進みました。1990年には心理学教授のウィリアム・カーンにより従業員エンゲージメントという概念が生み出され、生産性向上を目的とした「従業員のモチベーション管理」も人事業務の領域だと考えられるように変わっていきます。

しかし当時の人的資源管理(HRM)は学問であり、企業が実践する人事制度や業務として定着しませんでした。IBM社が1981年に同社最初のパソコンであるIBM 5150を発売するといった時代であり、技術が進歩するまでもう少し時間が必要だったのです。
アメリカでは、1990年代に給与計算や勤怠管理といった人事業務を効率化するオンプレミス型のシステムが、1990年代後半には人材育成や評価といったHRM機能をもつ製品が相次いで登場しました。2000年以降にはクラウドサービスとして提供される人事システムが増え、導入コストが大きく低減されて世界的に利用が拡大しています。

テクノロジーの進歩で広がる人事データ活用

2010年代には人事だけでなくさまざまな分野でクラウド化が進み、個別管理していたデータをクラウド上で連携・統合できるようになったため、具体的なデータ活用方法として多くの分野でデータ分析が注目されました。
人事システムもデータ分析のための管理ツールとしての価値を増しており、分析機能をもつ製品も登場しています。

近年100年で、人事は従業員管理から出発してデータ分析にもとづく戦略的提案といったように、業務領域を拡大しています。この拡大にともない、「人事部」内で完結していた業務は、経営層が人事データの分析結果を経営戦略に活かす、現場の事業部で従業員のモチベーションをマネジメントするといったように、「人事部」外に広がりました。そのため人事システムは、もともとの「人事」以外の機能を備え、複数の部署からアクセスできる製品が主流になっています。

日本における人事とHR

日本では世界恐慌の影響が少なく、1950年代から1970年代に高度経済成長やいざなぎ景気といった成長しやすい時代が続いたこともあり、「終身雇用」や「年功序列」といった慣習が根付きました。その結果「雇用者と従業員」は協力的な関係を築き、企業にとって従業員のスキルアップやモチベーション維持は成果につながっていったといえます。
では日本企業はなぜ、従来の「終身雇用」や「年功序列」といった「雇用者と従業員」の協力的な関係に根差した仕組みではなく、アメリカで誕生したHRMを必要としたのでしょうか。

バブル崩壊による雇用制度の変化

日本では、1990年代初頭のバブル崩壊による景気悪化に伴い、雇用者と従業員の関係が大きく変化しました。
1990年代後半から2000年代初頭にかけて、世界恐慌の影響を受けたアメリカのように、過去に例を見ない規模のリストラが行われます。その結果、当時成功していた海外企業を手本に従来の「終身雇用」や「年功序列」といった慣習が見直され、従業員の能力ではなく、職務や成果を中心に評価するといった制度を導入する企業が増えました。
この動きには、売上につながりにくい人件費カットや優秀な若手を雇用しやすくなるといったメリットがあったものの、短期間雇用や非正規雇用の割合が増加するといった問題の原因にもなっています。

日本におけるアメリカ型HRMの発見

短期間雇用や非正規雇用の増加により、部下や後輩の育成は評価されにくくなり、OJT(On the Job Training)の効果は低下するなど、従来の「終身雇用」や「年功序列」を前提とした仕組みは機能不全に陥りました。そのため企業は、従業員を成長させるための仕組みを新たに探す必要があったのです。

2000年以降のクラウドサービスの普及にともない、企業は生産性向上のためにさまざまなシステムを導入しました。人事システムやHRテックの導入に伴い、新しい人事制度で使いやすいアメリカ型HRMを機能として発見したといえます。

日本の人事制度は現在も欧米と異なるためシステムをそのまま利用するのは難しい場合もありますが、アメリカ型HRMは外国人労働者の雇用や海外展開などの点で利便性が高く、うまく活用を進める日本企業が増えています。

求められる雇用制度の転換とHRM

2022年に経済産業省は、2030年や2050年の産業構造転換を見据え、未来を支える人材を育成・確保するための大きな方向性を取りまとめた「未来人材ビジョン」を発表しました。
その中で、「外国人労働者は2030年には日本の至る所で不足する」「生産年齢人口は2050年には現在の2/3に減少する」といった労働者不足が想定されています。また「AIやロボット技術の進歩により事務や販売従事者といった職種の需要が減る」とも想定されています。
このように雇用が難しくなり、人材育成の重要性が高まるにつれ、HRM機能をもつ人事システム活用はより重要になるでしょう。

人事システムの主な機能

人事システムの主な機能は、「人事管理」の事務処理と「HRM(人的資源マネジメント)」、「人事データに関連する機能」の3つに整理できます。

「人事管理」または「人事労務管理」と呼ばれる事務業務に関する機能にプラスして、人事を経営戦略と紐づけられるタレントマネジメントや分析へ範囲を拡張したものが、HRM(人的資源マネジメント)機能です。
「人的資源」を英訳すると「Human Resources」であり、HRテックといった名称の語源にもなっています。人事管理とHRMはその成立経緯や視点が異なるため、「勤怠管理」や「採用管理」などはHRM機能に含まれますが、タレントマネジメントや分析機能と分けて整理したほうが分かりやすいでしょう。

人事管理に関する機能

人事部や経理部、総務部の業務だった、従業員の処遇を決定する制度に関する機能です。広義では勤務形態や労働時間、福利厚生など従業員に関する仕組みすべての機能を指す場合もあります。

・勤怠管理
従業員の出退勤や休暇、勤務時間を管理する機能です。

・給与計算
従業員の給与や社会保険、税金、年金の計算だけでなく振込手続きといった関連業務を効率化する機能です。

・福利厚生管理
従業員の福利厚生に関するデータ管理や利用手続きを効率化する機能です。

・採用管理
応募者のデータや選考状況などを管理し、採用業務をサポートする機能です。

HRM(人的資源マネジメント)に関する機能

「人事管理に関する機能」として説明した機能に加えて、育成やタレントマネジメント、モチベーション管理といった生産性を高めるための人事データ活用に関わる機能を含みます。

・タレントマネジメント
育成や人材配置の判断材料になる、従業員の能力や所有する資格、経験などを管理する機能です。

・分析
従業員データをもとに、正社員比率や有休取得率などを分析する機能です。

その他の機能

人事システムに蓄積したデータを活用するための機能です。必須ではなく、利便性を高める機能のため、各社製品の特徴が出やすい部分でもあります。

・ID管理
雇用や異動、退職にともなうID発行や権限変更を一元管理し、複数システムのID管理を効率化する機能です。

・他システムとの連携
基幹システムやほかの外部ツールとの連携機能です。連携方法によって組みあわせて利用できる製品が変わるため、製品選びの際に注意すべきです。

人事システム導入前に必要な準備

人事システムを導入する前に、既存の人事業務効率化と新たなHRM実践それぞれについて準備が必要です。人事システムは両方の機能を備えており、どちらか片方の機能を利用するだけではコストに見合う成果をあげられないため、しっかりと準備を進めておきましょう。

・既存の人事業務効率化の準備
新しく人事システムを導入するタイミングで、従来の人事労務管理に関する業務フローを検証し、可能な範囲でフローを改善すべきです。
人事システム導入の影響は、人事部だけに留まりません。企業によっては経理が担当している給与計算や、それぞれの事業部ごとに管理している休暇届の承認フローなど広い範囲に影響が出ます。たとえば、勤怠管理や承認手続きのためだけに営業担当者が帰社するといったルールは、社外から手元の端末で処理できるように改善できると不要です。影響が出る可能性がある広い範囲について検討しておくことで、導入後の業務効率化の効果を最大化できます。
また、運用フローを一度に大きく変更すると現場への負荷が大きいため、段階的にフロー変更を進めるケースもあります。「どの部分を変更するか」だけでなく、どのタイミングで変更するか、スケジュール感についても検討しておくと、より効果的です。

・HRM実践の準備
HRM実践には、新たな担当者の選定や従業員への周知といった準備も必要です。
経営戦略に沿って人事から効果的にアプローチするためには、経営的な視点やデータ分析能力といった既存の人事業務とは異なる能力をもつ人材が不可欠です。また従業員のモチベーション管理やキャリアアップの支援には、人事部ではなく、それぞれの事業部内でHRMをしっかりと推進する担当者が必要になります。
ほかにも、以前は把握していなかった人事関連データを管理するため、従業員にデータ入力やアンケート回答で協力してもらうことも増えます。データ活用の目的や効果などを周知して、従業員が積極的に協力しやすい環境を整えておくことも大事です。

まとめ

人事システムやERPなどの人事業務をサポートする製品はさまざまな機能を備えており、最適な製品選びのために、管理業務とHRM両方の知見をしっかりと把握するのは簡単ではありません。またシステムが大規模で多機能になるにつれ、導入や活用を成功させるための準備は増え、社内メンバーだけでプロジェクトを進めるのは大変です。そのため導入から運用の定着までの一番大変な時期は外部のプロの支援を活用するのも効果的です。
セラクグループは統合人事ERP『COMPANY(R)』の導入・定着サポートから、運用人材の継続的な派遣まで、さまざまな支援を行っています。お悩みがございましたらぜひご相談ください。

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