コラム
2024.12.12

戦略人事とは?人事戦略との違いや具体例、重要な4つの機能を解説

戦略人事とは?人事戦略との違いや具体例、重要な4つの機能を解説

はじめに

企業全体の生産性向上や業務の効率化を行うためには、戦略人事が鍵となります。本記事では、戦略人事の全体像を把握し、効果的な人材マネジメントを実現するために理解しておくべき内容として、戦略人事と人事戦略との違いや具体例、重要な4つの機能について詳しく解説します。

戦略人事とは

戦略人事とは、経営資源のひとつである「人」の価値最大化を目的とする、経営戦略と連動した人事戦略の策定・実行のことです。学術分野では、「戦略的人的資源管理(Strategic Human Resource Management)」と呼ばれており、企業全体の成長と競争力向上を目指す人事戦略です。従来の人事が採用や給与計算、労務管理などの業務に焦点を当てていたのに対し、戦略人事は経営戦略と密接に関係しています。具体的には、企業のビジョンやミッションに基づき人材育成や組織開発を行って、企業の長期的な目標達成に貢献する戦略です。従業員一人ひとりの能力を最大限に引き出し、企業全体の生産性と効率の向上を実現するのが狙いです。

戦略人事と人事戦略の違い

戦略人事は、経営陣との連携を重視し、企業の方向性に沿った人材マネジメントを行うことに注視しています。人材をいかに活用するかを考え、具体的な戦略を立てます。経営戦略との連動で、企業全体の目標や競争力を高めるための人事施策を推進します。一方、人事戦略は、採用や配置、育成などの人事業務全般における課題解決のための戦略そのものです。具体的には、どのように優秀な人材を採用するか、どの部署に配置するか、社員のスキルアップをどのように図るか、日常的な人事業務の改善策や方針を策定・実行することに重点を置きます。

戦略人事と経営戦略との関係性

両者の関係は、「目標」と「それを達成するための手段」に相当します。具体的には、企業の長期的なビジョンやゴールを示すものが経営戦略や経営計画であり、それを実現するために必要となる手段が戦略人事です。戦略人事では、経営戦略を理解したうえで、「人」が担う領域に関する対策を実行することが求められます。たとえば、企業がグローバル展開を目指している場合、戦略人事ではグローバルに通用する人材の育成や配置が必要です。また、イノベーションを促進する経営戦略がある場合、戦略人事はイノベーティブな人材の採用や、社内での創造的な環境作りを進めます。

戦略人事が必要な理由

現代のビジネス環境は急速に変化しており、これに対応するための企業戦略が求められています。変化の激しい時代に市場での優位性を確保するには、変化に柔軟に対応できるスキルや知識、経験をもつ人材の獲得が不可欠です。そこに戦略人事が必要とされる理由があります。企業価値の創出において、「人」の重要性はますます高まってきています。人材は企業の成長や競争力を支える最も重要な資源であり、経営戦略と密接に結びついた形で人事を考えることは欠かせません。戦略人事では、経営戦略を深く理解して人材の最適配置や育成を行うことで、企業全体の目標達成を支援します。たとえば、新しい市場への進出や技術革新を目指す企業は、それに対応できる人材の採用と育成が不可欠です。また、グローバル展開を進める企業では、国際的な視野をもつ人材の獲得と育成が求められます。戦略人事は、経営戦略に沿った人材戦略を策定・実行することで、企業の競争力を高め、持続的な成長を支える役割を果たします。

戦略人事を行うことは困難か?

戦略人事の実現は容易ではありません。理由のひとつとして、経営者が人事部をビジネスパートナーとして認識できておらず、人事部に必要な人材が配置されていないことがあげられます。経営者が人事部を戦略的なパートナーとしてではなく、事務作業を担う部署として扱った場合、戦略人事の実行は困難です。また、通常の人事オペレーションとは異なる仕事が多い点も、戦略人事が困難とされる要因です。採用や給与計算、労務管理といった日常業務に加え、経営戦略と連動した人材の最適配置や育成、組織開発などの戦略的業務をこなすことには、高いスキルと多大な時間を要します。さらに、これらの業務を並行して進めることは容易ではなく、適切なリソースが確保されていない場合、戦略人事の実行はいっそう難化します。

戦略人事に必要な4つの機能・役割

戦略人事に必要な4つの機能・役割とは、以下のとおりです。

  • ・HRBP(HRビジネスパートナー)
  • ・OD&TD(組織開発と人材開発)
  • ・CoE(センターオブエクセレンス)
  • ・OPs(オペレーション部門)

HRBP(HRビジネスパートナー)

HRBP(Human Resource Business Partner)の目的は、ビジネスの成果を最大化することにあります。HRBPは各事業部門と綿密な連携を取りながら、人的資源と組織作りの観点からビジネスをマネジメントするのが特徴です。具体的には、各事業の人材や組織に関連したリクエストに応じる、言語化されていない課題を引き出して解決することが求められます。たとえば、特定の事業部門が新しいプロジェクトを立ち上げる際には、当該プロジェクトに最適な人材を確保し、必要なトレーニングを提供するのがHRBPです。また、組織の風土改革や業務プロセスの改善が必要な場合も、HRBPが中心となって施策を進めます。

OD&TD(組織開発と人材開発)

ODとは「Organization Development」、TDとは「Talent Development」のことです。これらの機能のうち、どちらが欠けても戦略人事は成立しません。OD(組織開発)は、組織全体の構造や文化を見直し、効率性や効果を高めることを目的とします。たとえば、組織のフラット化や部門間の連携強化、社内コミュニケーションの改善などを通じて、組織全体が一丸となって目標に向かう環境を整備することです。一方、TD(人材開発)は、従業員個々の能力やスキルの向上に重点を置きます。具体的には、トレーニングプログラムの設計やキャリアパスの設定、メンターシップの導入など、社員一人ひとりが成長し続けるための支援を提供します。

CoE(センターオブエクセレンス)

CoE(センターオブエクセレンス)は、経営資源である優秀な人材やノウハウなどを1か所に集約する役割を担っています。社内における各専門領域に対して、人事領域から企画や設計機能を提供し、組織全体のパフォーマンスを最大化することが目的です。CoEは特定の専門知識やスキルをもつ人材を集め、集約されたノウハウをもとに、戦略的な人事施策を策定・実行します。たとえば、新しい人事制度の導入や、タレントマネジメントの推進、リーダーシップ開発プログラムの設計などがあげられます。

OPs(オペレーション部門)

OPs(オペレーション部門)は、CoEで定められた施策を実際に運用する役割を担っています。つまり、戦略的な計画や方針を現場で具体的なアクションに落とし込み、実行に移すことがOPsの主な業務です。たとえば、CoEが新しい人材育成プログラムを設計した場合、OPsは当該プログラムを現場で運用し、従業員がスムーズに参加できるように調整します。また、採用プロセスの改善策が決まった際には、実際の採用活動として面接や選考を進めます。さらに、OPsはアウトソーシング先の管理も行います。具体的には、外部のリクルートエージェンシーや研修会社など、パートナー企業との連携を維持し、業務の質を確保しつつ効率的に進める形です。

戦略人事を成功させるためのポイント

ここでは、 戦略人事を成功させるための6つのポイントを解説します。

経営戦略、事業戦略の理解を深める

戦略人事を成功させるためには、まず企業のビジョンや中長期目標への深い理解が不可欠です。人材戦略を、企業の目指すべき方向性や成長戦略に沿った形で策定する必要があるためです。こうした人材戦略により、人事施策が企業全体の目標達成に寄与する形で展開され、戦略的な人材マネジメントが実現します。具体的な手段としては、経営陣との面談を定期的に実施し、経営戦略の詳細を直接ヒアリングすることが有効です。経営者や幹部からのフィードバックを得れば、戦略人事の方向性をより明確にできます。また、社内の他部門との連携を強化し、現場のニーズや課題を把握することも重要です。

フレームワークを活用し自社課題を正しく理解する

フレームワークを活用することで、企業の現状や課題を客観的に分析し、効果的な対策を講じられます。たとえば、以下のようなフレームワークが戦略人事に役立ちます。

  • ・SWOT分析:企業の強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)を明確にし、戦略的な意思決定をサポートする
  • ・PEST分析:政治(Political)、経済(Economic)、社会(Social)、技術(Technological)の要因を分析し、外部環境の変化に対応する戦略を策定する
  • ・バリューチェーン分析:企業の価値創造プロセスを分解し、各活動がどのように付加価値を生み出しているかを理解することで、改善ポイントを特定する

求める人物像を定義する

求める人物像の定義を正確に行うことで、経営戦略上の課題に応えられる人材を効果的に採用・育成できます。まず、企業の現状と将来のビジョンから、どのようなスキルや経験が必要かを分析することによって、具体的な人物像や期待する能力を定義できます。たとえば、海外市場への進出を目指している企業であれば、国際経験や多言語対応能力が求められます。また、技術革新を推進する企業では、創造性や技術スキルが重視されます。求める人物像を定義する際には、抽象的な表現を避け、具体的な能力や行動特性をあげることが必要です。たとえば、「チームワークが得意な人材」ではなく、「プロジェクトのリーダーシップを発揮し、チームの成果を最大化できる能力をもつ人材」のような具体的な定義が求められます。

現場の理解を得る

現場の理解を得るうえでは、まず戦略人事の内容を各領域の人事担当者が共有することが重要です。戦略の目的や具体的な施策を明確に伝え、現場の担当者が施策の意図を理解することで、戦略を円滑に実行できます。定期的なミーティングや説明会を通じて、戦略の進捗や成果を共有することが有効です。また、新しい戦略を実行するためには、既存の業務が滞りなく進められるように業務負荷を軽減する必要があります。そのためにはツール導入による業務効率の向上が重要です。たとえば、プロジェクト管理ツールや人材管理システムを活用すれば、業務の可視化により、担当者の負担を軽減できます。

人事施策に整合性をもたせる

人事部は、経営戦略に沿った施策の策定・実行と同時に、従来の人事業務も行う必要があります。企業全体の目標達成に寄与する一貫した人事戦略を、人事施策に整合させる必要があるためです。整合性が欠けた場合、従業員は混乱し、モチベーションが低下する可能性があります。たとえば、新しい人事施策が従来の方法と相反するかのように思われれば、従業員の不安や不満を招きかねません。これまでの業務プロセスとの間に矛盾がないよう設計し、一貫性や合理性を担保する必要があります。

従業員の理解を得る

従業員の理解が十分に得られていない場合、不満や混乱の原因となり、企業全体のパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性があります。人事部自らが従業員に対して企業の戦略を説明し、従業員があるべき姿を示すことが重要です。たとえば、新しい人事施策や経営戦略が導入される際には、その目的や意義を明確に説明し、従業員が理解しやすい形で情報を提供する必要があります。定期的な説明会や社内報、メールなどを活用して、戦略の進捗や成果の共有を図ることが有効です。こうした施策により、従業員は自分の役割や期待される成果を明確に理解し、モチベーションが向上します。

戦略人事の具体例

戦略人事の具体例を3つ解説します。

ダイレクトリクルーティング

求人広告や人材紹介を介さず、企業が望む条件に合う人材を能動的に探し出し採用する方法です。人材データベースやSNS、プロフェッショナルネットワーキングサイトを活用し、企業が自ら候補者にアプローチします。一見すると人事戦略の範囲とも捉えられますが、事業戦略達成を目的としている場合は戦略人事とみなされます。つまり、特定のスキルセットや経験をもつ人材を直接採用することで、企業の競争力や成長を促進する戦略的アプローチです。たとえば、新しい市場へ進出するために現地の専門知識をもつ人材を確保すること、技術革新を目指して優秀なエンジニアをヘッドハンティングするケースがあげられます。

リカレント教育の推進

リカレント教育とは、キャリアの各段階で学び直しを行い、常に最新の知識やスキルを身につけることです。この戦略は、急速に変化するビジネス環境において、企業が競争力を維持するために重要な役割を果たします。企業内でのリカレント教育の推進にあたっては、従業員が学習の機会をもつことを奨励し、支援することが重要です。具体的には、社内研修やオンラインコースの提供、資格取得のサポートなどが考えられます。また、従業員が大学院での学習を希望する場合、その費用や時間を支援するプログラムを設けることで、さらなる専門性の向上を図れます。

タレントマネジメントの導入

タレントマネジメントとは、従業員それぞれがもつスキルや経験を把握し、適切に組み合わせることで、個々のパフォーマンスを最大化する手法です。企業全体の生産性を向上させ、持続的な成長を促進する効果が期待できます。まず、タレントマネジメントシステムを導入し、従業員のスキルや経験をデータベースに登録します。このデータをもとにプロジェクトやチームを編成し、最適な人材を適材適所に配置するという流れです。たとえば、特定のプロジェクトに必要なスキルセットをもつ従業員を選定し、チームを編成することで、プロジェクトの成功確率を高められます。

まとめ

戦略人事は長期的な目標達成に貢献するために必要な人事戦略です。戦略人事を成功させるためには、フレームワークを活用して自社課題を正しく理解すること、企業が求める人物像を定義することなどが重要ですが、それらを管理するのは容易ではありません。戦略人事を効率的に進めるためには、社内メンバーだけでなく外部のプロの支援を活用するのも効果的です。セラクグループは統合人事ERP『COMPANY(R)』の導入・定着サポートから、運用人材の継続的な派遣まで、さまざまな支援を行っています。戦略人事を効率的に行いたいとお考えの場合は、ぜひご相談ください。

あわせて読みたい記事

  • Salesforce コンサル派遣なら選ばれるセラクCCC
  • クラウド導入・運用はプロにお任せ!
  • 統合人事システム COMPANY支援
  • 法人・活用サポートまで充実NewtonX