はじめに
近年では、多くの企業が1on1ミーティングを導入し取り組んでいます。さまざまなメリットのある1on1ですが、成果を得るためには正しい取り組みを行わねばなりません。本記事では、1on1ミーティングの概要や得られるメリット・注意・具体的な流れなどを解説します。
1on1ミーティングとは
1on1ミーティングとは、上司と部下が1対1で定期的に行う対話です。上司と部下の2人きりでコミュニケーションをとることで、部下の悩みをはじめとした現状を正確に把握できるほか、信頼関係の強化や成長の促進につながるメリットがあります。
1on1ミーティングは上司目線ではなく、部下を主役として行うミーティングです。上司が一方的に部下へ指導を行うのではなく、仕事の悩みやプライベートの話題などをオープンに話し合います。
1on1と人事評価面談の違い
1on1ミーティングと人事評価面談は、どちらも上司と部下の2人による会話である点において違いはありません。ただし、1on1が部下の成長促進や双方の信頼関係強化を目的としているのに対し、人事評価面談は部下を評価・管理するために実施します。
そのため、人事評価面談では部下の評価に関する話題がメインです。設定している目標に対する達成状況や解決すべきと考える課題、今後の目標などを話し合います。一方、1on1では仕事のことに加えて、部下の趣味や家族に関することなど、さまざまな話題でコミュニケーションをはかります。
また、人事評価面談は四半期や半期に一度の頻度で行われるケースが多い一方で、1on1は週に1回から月に1回のように、短いスパンで実施されることが多いのも特徴です。
1on1の重要性が増している理由
近年、1on1ミーティングが多くの企業で注目されています。理由として以下の3点があげられます。
コミュニケーションの機会を作れる
働き方改革の推進や新型コロナウイルスの世界的流行を受け、人々の働き方は多様化しました。リモートワークやモバイルワーク、フレックスタイム制の導入など、働き方の多様化によって従業員間でのコミュニケーションは減少傾向にあります。
コミュニケーションの減少によって、従業員が疎外感や孤独感を抱くほか、仕事へのモチベーションが下がるなどのリスクが考えられます。 結果として、優秀な人材が組織から流出してしまうかもしれません。こうした事態を避けるためにも、1on1のようなコミュニケーション機会の創出は重要です。
キャリアの多様化に対応できる
キャリアの多様化がますます進む現代では、すべての従業員が同じ価値観のもと働いているわけではありません。描くキャリアパスも個々で大きく異なると考えられるため、育成方法も一人ひとりに合わせて考案する必要があります。
個々に合わせた適切な育成方法を考えるにあたり、上司と部下による対話は不可欠です。1on1での対話によって、部下の価値観や目指しているキャリアを把握できます。
VUCA時代への適応の重要性が高まっている
VUCAとは、「Volatility(不安定さ)」「Uncertainty(不確実さ)」「Complexity(複雑さ)」「Ambiguity (曖昧さ)」それぞれの頭文字で構成される造語です。VUCAは将来の予測が困難な状態を意味する言葉であり、現代はまさにVUCAの時代といわれています。
働き方の多様化や価値観の変化、新たな技術の躍進など、さまざまな要素によって、これまでの経験や価値観が通用しにくくなりました。このような時代に対応するには、自ら考えて行動できる人材の育成が不可欠です。そのためには、1on1のようにオープンな会話をできる場が必要であり、双方がこれまでの常識にとらわれない、柔軟な思考を得ることが求められます。
1on1の目的
1on1は、部下と上司の2人でただ会話をするだけではありません。部下の育成や組織力の強化を目的とした取り組みであることを念頭において実施する必要があります。
メンバーの育成
1on1の目的は部下の育成です。2人きりの場で業務に関するアドバイスばかりをするわけではありません。部下の自律性を育むことにスポットをあて、成長できるようサポートを行います。
1on1では、部下がさまざまな悩みを上司に打ち明け、それに対し上司が適切なアドバイスを送ります。会話を通じて部下は、今まで気づかなかった自分の過ちや、不足している能力などの把握が可能です。
組織力強化
1on1ミーティングは組織力の強化にも有効です。上司と部下がさまざまな話題でコミュニケーションをとることで、信頼関係も今まで以上の強固なものとなり、仕事に対するモチベーションも高まります。部下のモチベーションが高まれば生産性が向上し、ひいては組織力の強化につながります。
また、従業員のエンゲージメントを高めるためにも、1on1は有効です。上司が部下の悩みを聞き取り、適切なアドバイスを送りつつ成長をサポートするため、部下は「大事にされている」と感じられます。この企業でいつまでも働きたい、より組織に貢献したいという気持ちが育まれ、生産性向上や離職防止にもつながります。
1on1で得られる効果やメリット
1on1ミーティングで得られるメリットとしてあげられるのが、心理的安全性の醸成です。心理的安全性とは、組織のなかで自分の感情や意見を、周りの目や反応を気にすることなく表現できる状態を指します。
部下との信頼関係を築ける
上司と部下、2人だけの対話によって、信頼関係の構築や強化につながる点がひとつのメリットです。双方に信頼関係が構築されていないと、部下は仕事に関する悩みがあってもなかなか相談できません。結果、悩みを誰にも相談できない部下は、仕事で本来のパフォーマンスを発揮できないだけでなく、退職につながるおそれがあります。
こうした事態を避けるためにも、部下との信頼関係構築は重要です。1on1で良好な関係の構築・強化に努めれば、部下は些細なことでも相談できます。 上司も、部下の置かれている状況を正確に把握でき、その都度適切なアドバイスをできます。部下が突然退職してしまう事態を防ぐためにも、信頼関係の構築・強化に努めましょう。
部下のモチベーションが高まる
1on1では、上司が部下に対しアドバイスやフィードバックを伝えます。部下は適切なアドバイスやフィードバックをもらうことで、今後どのように進むべきかを把握でき、自信もつくため仕事に対する意欲が高まります。
従業員のモチベーションは、組織の生産性に直結しているといっても過言ではありません。1on1でアドバイスを送るだけでなく、頑張りをいつも見ている、正当に評価していると伝えることがモチベーションアップにつながり、ひいては組織の生産性向上にもつながります。また、部下のモチベーションアップによって、離職防止効果が期待できる点もメリットです。
組織の生産性が向上する
1on1では、さまざまな話題で対話するため、部下の考え方や特性などを上司が正確に把握できます。部下の特性を正確に把握できれば、本人の能力や資質をより発揮できる部署や、ポジションなども把握でき、適材適所への人材配置を実現可能です。
適材適所への人材配置によって、部下は本来のパフォーマンスを発揮でき、生産性の向上につながります。また、1on1では部下が主役となって話を進めるため、部下は自ら話題を展開する能力が鍛えられ、主体性も高まります。
1on1の基本的な流れ
やみくもに1on1ミーティングを実施しても、望むような効果は期待できません。取り組みをはじめる前に、1on1の基本的な流れを把握しておきましょう。
1.人事部として行うべき準備をする
1on1は、人事戦略の一環として取り組むべき施策です。そのため、現場に丸投げするようでは本来の効果やメリットは得られず、時間やコストをいたずらに浪費してしまいます。効果的な1on1を実施するためにも、人事部は適切な準備を整えたうえで取り組まねばなりません。
人事部が行うべき準備のひとつがガイドラインの整備です。これは、1on1を実施するうえでの基本的なルールです。また、なぜ1on1を実施するのか、目的や意義、メリットなどを現場へ周知しましょう。現場の方が目的や意義を正しく把握できれば、実のある1on1実施につながります。
上司のマネジメントスキルがどの程度なのか、事前に把握するのも大切です。必要に応じてマネジメント研修を実施しましょう。
2.実施目的を上司と部下が共有する
1on1に対する上司と部下の熱量や理解度が異なると、望むような成果は期待できません。部下が人事評価面談と同じであると勘違いし、心を開いたコミュニケーションをはかれないおそれもあります。
1on1を成功させるには、部下に主役となってもらわなくてはなりません。なぜ1on1が必要なのか、どういった目的があるのかを部下に説明し、理解してもらいましょう。1on1の目的はあくまで部下の成長促進です。評価目的の面談ではないと伝え、積極的にコミュニケーションをとりましょう。
3.上司・部下がそれぞれ準備を行う
1on1は、突発的に行うイベントや単なる雑談ではありません。あらかじめ日時を決め、上司と部下が話し合う内容を決めたうえで行うのが一般的です。部下は相談する内容やテーマなどを上司に伝え、提案された上司はどのようにアドバイス、フィードバックするかを考えます。
双方が事前準備を怠ると、いざミーティングが始まっても「何を話せばいいのかわからず、効率的に会話できない可能性があります。双方の時間を無駄にしないためにも、上司と部下の双方が目的と目標を明瞭に準備したうえで臨まなければなりません。
4.1on1を実施する
1on1の当日には、まず雰囲気づくりとして部下へ近況に関する質問をしましょう。「体調はどう?」「プロジェクトは順調に進んでいる?」など会話のきっかけを作るフェーズです。次に、部下から話したいテーマが複数あるのなら、今回の1on1で話し合うメインテーマを決めます。上司がテーマを決めてしまうと、部下は本当に相談したいことを話せません。部下の主体性を養い、成長を促すことが目的となるためテーマは部下自身に決めてもらいましょう。
部下からの話を聞いて現状を把握できたら、問題提起をします。部下自身に考えてもらうことが大切なため、上司はうまく問いかけを行いましょう。そのうえで解決策を話し合い決定します。
あくまで、1on1の主役は部下であることを忘れてはいけません。上司が部下に対して一方的に話をすることや、部下の話を少し聞いただけですぐにアドバイスしてしまうと、説教や指導と変わりません。説教されている、怒られていると部下が感じる可能性は少なからずあるため、上司は傾聴のスタンスで臨むことが大切です。
5.実施を継続する
1on1の終盤には、今後どのような行動をすべきか話し合いましょう。また、具体的な行動プランを策定する際には、次回の1on1までに実現可能なものにします。週や月に一度など、短いスパンで定期的に実施することで、部下の目標達成度を正確に把握でき、なおかつ適切なフィードバックも可能です。
1on1は、一度実施したくらいで成果を期待できる取り組みではありません。部下の持続的な成長を促すには、取り組みの継続が大切です。また、1on1で話し合った内容を記録としてその都度残すことも忘れないでください。効率化のため、タレントマネジメントシステムを導入するのもひとつの手です。
1on1実施時の注意点
1on1は、部下の主体性と成長を促す優れたコミュニケーション手法ではあるものの、万能ではありません。実施する際の注意点を解説します。
1on1のみでの信頼関係構築は難しい
マンツーマンでコミュニケーションをとれる1on1は、部下との信頼関係構築、向上に有効であるのは間違いありません。ただ、1on1のみで部下と強固な信頼関係を築きあげるのは困難です。
部下と信頼関係を構築するには、日常的なコミュニケーションも重要です。普段、部下の話をまったく聞かない、会話がほとんどないといった状態で1on1を実施したとしても、それだけで信頼関係は構築できません。日ごろから部下を気にかけて積極的に声をかけるよう意識し、日常でのやり取りにも配慮する必要があります。
上司の準備やスキルが不足すると効果が期待できない
上司の準備やスキルが不足していると、1on1が雑談だけで終わってしまう可能性があります。これでは双方の時間を費やすだけとなるため、上司は適切な準備を整えたうえで臨まなければなりません。
事前に話し合うテーマを提案された上司は、どういった方向性で話を進めるかを整理しておく必要があります。必要に応じて1on1のシミュレーションもしておくとよいかもしれません。
効果が出るまでに時間がかかる
上司と部下が強固な信頼関係を築くには、相応の時間がかかります。1on1を実施しているからといって、すぐに信頼関係を築くのは困難であることを覚えておきましょう。
1on1の効果が見えはじめるまでには一定の時間がかかります。取り組みを始めてすぐ効果が現れるケースのほうが稀であるため、最初は効果を得ることに気をとられて焦るよりも、部下との信頼関係を確実に築いていくことを目指して長い目で取り組んでいきましょう。
1on1のテーマ例
先述したように、1on1のテーマは部下に決めてもらうべきです。しかし、話を聞いてもらうことに慣れていない、回数を重ねているため純粋にネタがない、上司へ心を開いていないなど部下の心情はさまざまです。部下から話すテーマを提示されなかった場合は、上司からテーマを提案するのもよいでしょう。以下からいくつかのテーマと質問例を紹介します。
心身の健康状態
部下が本来のパフォーマンスを発揮するためには、心身の健康状態が良好でなくてはなりません。長期的に働くうえでも心身の健康状態は大切なため、これをテーマにするのもよいです。「最近残業続きだが睡眠はきちんととれているか」「体調や精神面で不安なことはないか」などを質問してみましょう。
現在のモチベーション
部下のモチベーションは、組織の生産性に大きく影響します。働くうえで悩みがないか、業務の進捗に問題はないかなどを聞いてみましょう。社内での評価や業務で達成した成果、モチベーション向上につながる話題をもちだすのもひとつの手です。
業務上の目標設定
業務上の目標を設定することで、部下は達成に向けて邁進できます。事前に部署の方向性を伝えることで、部下が主体的に目標設定を行えます。目標設定について話し合うのなら、部下が実現可能な目標を設定できるよう上司が適宜サポートしましょう。
将来のキャリア
将来のキャリアプランを明確にすることで、部下は今後自分がどう行動すべきかを理解でき、モチベーション向上につながります。どのような業務ならもっとパフォーマンスを発揮できるのか、やりがいを感じられる業務は何かなどを質問してみるとよいでしょう。
プライベートに関すること
ミーティングのアイスブレイクとして、プライベートの話題はオススメです。興味があることや趣味など、プライベートの話題から話が盛りあがるケースも珍しくありません。ただし、どうしても必要な話題ではないため、部下の内情を掘り下げるようなセンシティブな話題の無理強いは避けましょう。
まとめ
1on1ミーティングは、部下の成長促進や信頼関係強化を目的とした、上司と部下が定期的に行う対話です。1on1は働き方の多様化やVUCA時代に対応するために重要で、部下の価値観やキャリアを把握し、柔軟な人材育成を支援します。また、部下を主役にし、仕事の悩みやプライベートな話題をオープンに話し合うことで心理的安全性を醸成し、モチベーション向上や適材適所の配置につながります。人材の適材適所な配置には、その人材の情報を記録・管理することが大切ですが、多くの情報の記録と管理は煩雑な作業のひとつです。そこで情報の記録・管理を用意にするのがマネジメントシステムです。
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