コラム
2025.01.21

労働力人口減少の原因と企業への影響、人事部がとるべき対策を紹介

労働力人口減少の原因と企業への影響、人事部がとるべき対策を紹介

はじめに

労働力人口の減少は、企業にとって今後ますます深刻な課題となります。主な原因は少子高齢化や出生率の低下であり、製造業、介護業界などの労働集約型産業が大きな影響を受けると予測されています。ただ、適切な対策を講じることで、この問題に対応することが可能です。この記事では、労働力人口減少の原因と影響を整理し、企業がとるべき具体的な対策について解説します。

日本が抱える労働力人口減少問題の概要

日本では近年労働力人口の微増傾向が見られるものの、経済の中核を担う生産年齢人口の減少が深刻な問題となっています。労働力人口と生産年齢人口の違いを理解することが、労働力不足への適切な対策を考える重要な鍵となります。

労働力人口は今後減少が予測される

総務省統計局の労働力調査によると、労働力人口は2019年に6,912万人を記録してからほぼ横ばいないし微減という傾向を示していましたが、2023年には6,925万人と増加しています。ただ、これは半導体需要やインバウンドの回復による雇用の増加と、主婦や高齢者の労働参加による影響が合わさったことによる、一時的な傾向と見られます。超高齢社会および少子化という現実を踏まえれば、労働力人口は今後減るといわざるを得ません。

労働力人口と生産年齢人口の違い

「労働力人口」と「生産年齢人口」は似ているようで、定義が異なります。国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、労働力人口は、15歳以上の中で、実際に働いている人(就業者)と、働く意思があるものの職をもたない完全失業者を含む人口を指します。このため、アルバイトやパート、学生、シニアなども労働力人口に含まれます。また、年齢の上限がないため、65歳以上で働く意思をもつ高齢者も含まれるのが特徴です。一方で、生産年齢人口は、15歳以上65歳未満の年齢層の人口を指します。ただ、この中には学生や専業主婦(夫)など、実際に働いていない人も含まれるため、労働市場での実際の労働力を正確に反映しているわけではありません。とはいえ、生産年齢人口は経済活動の中核を担う年齢層であり、とくにこの層の減少は労働力不足を引き起こす大きな要因となります。今後、生産年齢人口の減少は、団塊世代の退職や少子高齢化の進行によりさらに加速すると予測されています。国立社会保障・人口問題研究所によれば、2070年には、総人口が2020年比で約69%に減少する見通しです。この減少が労働力人口全体にも大きな影響を与えることが懸念されています。

労働力人口減少に対して企業(人事部)がとるべき対策

企業は労働力人口減少の影響を最小限に抑え、生産性を維持・向上させるための対策を講じる必要があります。とくに人事部門は、多角的なアプローチを通じて持続可能な組織運営を目指すことが重要です。

従業員の待遇を見直す

労働力人口が減少する中で、企業が人材を確保し、定着させるためには、給与や福利厚生などの待遇の見直しはもちろん、働きやすい環境の整備が不可欠です。たとえば、男性社員が育児休業を取得しやすい環境を作ることは、社員のエンゲージメント向上に大きく寄与します。従業員が長期的に安心して働ける職場を提供できなければ、現存する優秀な人材が他社に流出する可能性があります。男性の育休推進は多様な働き方をサポートし、企業全体の生産性向上にもつながります。また、男女ともにワークライフバランスを実現しやすい職場環境を築くための重要なステップです。待遇面の見直しは、労働力不足を補うための効果的な施策であり、企業の持続的成長を支えるための鍵となります。

ワークライフバランスの維持を支援する

ワークライフバランスの維持を支援することは、従業員の定着率を高め、労働力不足を防ぐうえで重要な取り組みです。とくに、子育てや介護といった家庭の事情で従業員が退職するリスクを減らすためには、仕事と私生活の両立を可能にする環境整備が必要です。たとえば、短時間勤務やフレックス制度、テレワークの導入など、柔軟な働き方の提供、あるいは育児休業や介護休業の充実といった制度も欠かせません。ただし、制度が整っていても、職場全体の意識が追いついていなければ、従業員の制度利用が思うように進まないことも想定されるため、経営層や管理職を含めた意識改革も同時に進めることが重要です。ワークライフバランスを支援することで、従業員は安心して長く働ける環境が整い、企業としても人材の流出を防ぎ、優秀な労働力を維持できます。これにより、企業の持続可能な成長が促進されます。

長時間労働やハラスメントを防ぐ

長時間労働やハラスメントは、従業員の離職を招きやすく、企業にとって大きな損失となります。長時間労働が続けば、従業員の健康が損なわれ、仕事に対する集中力や生産性も低下しがちです。その結果、モチベーションが下がり、離職につながるケースが増えます。こうした状況を改善するため、まずは労働時間の見直しが重要です。働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(働き方改革関連法)に基づき、残業時間の上限設定、労働時間の管理、有給休暇の取得促進などを徹底することが企業には求められています。また、職場でのハラスメント対策も欠かせません。ハラスメント行為は、被害者の心身に大きな影響を与えるだけでなく、職場の雰囲気を悪化させ、企業全体のパフォーマンスにも影響を及ぼします。ハラスメントを防ぐためには、研修を定期的に行い、相談窓口を設置して従業員が安心して働ける環境を整備することが大切です。さらに、長時間労働やハラスメントが発生しにくい職場作りの一環として、従業員の声に耳を傾け、定期的に意見を取り入れる仕組みの導入も有効です。

DXを進める

DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めることは、業務の効率化と人手不足の解消に大きく寄与します。手作業や紙ベースで行われていた業務をデジタル技術によって自動化することで、作業スピードが向上し、ミスも減少します。たとえば、RPA(Robotic Process Automation:ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入で、定型業務を自動化した場合、従業員はより付加価値の高い業務への注力が可能です。このように生産性を向上させる取り組みは、従業員の労働負荷を軽減し、人材不足の緩和にもつながります。また、人事業務におけるDX(HRDX)も注目すべき分野です。HRIS(人事管理システム)を導入することで、従業員の基本情報や評価データ、異動履歴などを一元管理し、人事業務の効率化を実現します。このシステムによって、経営陣は従業員のスキルや配置を迅速に把握でき、戦略的な意思決定がしやすくなります。HRISを活用すれば、人材の「見える化」が進んで、より適材適所な人材配置が可能となり、企業全体のパフォーマンス向上が実現できます。さらに、クラウド技術やWeb会議システムの導入により、テレワークの推進も可能です。これにより、従業員は柔軟な働き方を選択でき、ワークライフバランスを維持しながら労働市場に参入することが容易になります。

ハイパフォーマーを確保する

ハイパフォーマーを確保することは、企業の生産性向上とチーム全体の成長において極めて重要です。ハイパフォーマーとは、単に業務スキルが高いだけでなく、優れたコミュニケーション能力をもち、チーム全体を引っ張る存在です。このような人材は、自らの成功を実現するだけでなく、周囲のメンバーをも成長させられます。ハイパフォーマーは、チームにおいてロールモデルとして機能し、その行動や思考を周囲に示すことで、他のメンバーによい影響を与えます。彼らの働きぶりを間近で見た他のメンバーは、「自分も活躍したい」「さらにチームに貢献したい」というポジティブな意識へと変わり、チーム全体の士気が向上します。こうした意識改革が進むと、個々のメンバーも自らの能力を発揮しやすくなり、企業全体のパフォーマンス向上に寄与することが期待できます。企業がハイパフォーマーを確保し育成することは、短期的な成果の向上にとどまらず、長期的な組織力の強化にもつながります。ハイパフォーマーの影響で、企業全体の働く環境が改善され、持続的な成長が実現します。

業務プロセスを可視化する

自社内で行われている業務を細かく洗い出し、各プロセスを可視化することが必要です。これにより、手間やミスが生じやすい業務や、無駄に時間がかかっている作業を特定できます。手間や無駄のある業務はツールの導入や外注で解決することも可能です。たとえば、従来の勤怠管理が手作業中心であった場合、クラウド型システムに移行することで、自動化が可能となり、従業員や管理者双方の負担が大幅に軽減されることが期待できます。また、給与計算業務で見られる、システム間の連携不足や手作業が原因で生じる非効率化の問題は、RPAの導入や総合型システムの導入により解決でき、業務全体の効率が大幅に向上します。人事評価業務も外注候補のひとつです。従業員数に対して人事評価の作業が煩雑化しやすい場合、システム化による効率化が求められます。評価基準の標準化やオンラインシステムの導入は、評価業務を円滑化する有効な手段です。これにより、手作業や書類の管理にかかる時間が削減され、評価者も被評価者も業務への集中が可能になります。このように業務プロセスを可視化することで、企業全体の効率が向上し、とくに無駄の生じている業務についてはツールの導入や外注を選択できます。

労働力人口の減少による企業への影響

労働力人口の減少は、企業にとって深刻な影響を及ぼします。人材確保の競争激化や、人件費の高騰、労働環境の悪化が進んだ場合、企業の成長や競争力にも悪影響を及ぼします。これらの問題へ向けて、企業は抜本的な対策を講じる必要があります。

人件費高騰や人材確保の競争率上昇

労働力人口の減少にともない、人材確保の競争が激化しつつあります。この状況により、企業は人材獲得が困難になるだけでなく、人件費の高騰が避けられない状態となっています。とくに、採用市場が売り手優位の状況が続く中、企業は優秀な人材を引きつけるために、給与や福利厚生の充実を求められています。新卒初任給の上昇や、専門スキルをもつ人材への高額年収の提示に見られる人件費の高騰は、企業経営にとって大きな負担です。すでに「人手不足」による倒産事例も増加しています。

労働環境の悪化

人手不足により、一人あたりの業務負担が増え、労働環境の悪化が懸念されます。限られた人数で業務を回そうとすれば、残業や休日出勤が増加し、ワークライフバランスが崩れることも避けられません。さらに、業務過多によるストレスが蓄積されれば、職場の雰囲気が悪化し、従業員が離職する可能性も高まります。この負のスパイラルは、従業員の健康リスクやヒューマンエラーの増加を引き起こす要因にもなりかねません。

事業縮小のリスク

労働力人口の減少は、企業にとって事業縮小のリスクをともないます。人手不足が深刻化すれば、いくら効率化を進めても新規事業に取り組む余力は失われます。その結果、競争力が低下し、企業の成長機会を逃すことが多くなります。事業の縮小は、収益の減少につながり、さらなる人材流出を招きかねません。加えて、労働力人口の減少は日本全体の経済活動にも影響を及ぼします。生産活動と消費活動の両面で減少が起これば、GDP(国内総生産)も縮小し、国内市場の需要が低迷することで、企業は投資を控えるようになります。これにより、経済成長が停滞し、国全体として活力を失うことが避けられません。

労働力人口減少の影響を受けやすい業界

労働力人口の減少は、日本経済全体に深刻な影響を及ぼしますが、とくに影響を受けやすい業界は、医療・福祉分野、サービス業、建設・物流業界、そしてIT業界です。各業界における具体的な影響を見ていきます。

医療・福祉

医療・福祉分野においては、少子高齢化の影響が最も深刻な状況です。高齢化が進むにつれて医療や介護の需要は急増している一方、働き手となる若い世代が減少し、人材不足が大きな課題となっています。介護分野では、団塊の世代が高齢化する2025年に向けて介護サービスの需要がさらに高まると予測されていますが、人材の供給が追いつかず、相当数の需給ギャップが生じる可能性が指摘されています。また、医療分野では医師の労働時間に対する規制が強化される中で、今後は医師不足がいっそう深刻化するおそれがあります。こうした背景から、医療業界では予防医療やオンライン診療の導入が進み、介護業界では自動化や外国人労働者の活用が検討されています。その他、高齢者自身が介護職に就くことで、経験や共感力を活かし、現場での貢献が期待されるという前向きな側面もあります。

サービス業

経済産業省の調査によるとサービス業は、ホテルや旅館、飲食店など、人手を必要とする業種が多いため、労働力人口の減少にともなう影響が大きい分野です。とくに宿泊業や飲食業は、24時間体制で運営されることが多く、従業員の負担が重いうえに、離職率が高い傾向も見られます。コロナ禍後の需要回復やインバウンド観光客の増加にともない、これらの業界では人手不足がさらに深刻化しています。そうした中で、従業員にかかるプレッシャーは増加し、業務の効率化が求められています。サービス業は日本のGDPの約70%を占める重要な産業であり、この業界が抱える人手不足は日本全体の経済にも波及しかねません。現在、外国人労働者やミドルシニア層の活用、自動化技術の導入が進んでおり、セルフレジや配膳ロボットなどの技術が労働力不足を補う手段として注目されています。

建設・物流

建設業と物流業界は、もともと慢性的な人手不足に直面しているため、労働力人口の減少による影響がとくに大きい分野です。建設業では、高度経済成長期に整備されたインフラの老朽化が進み、2030年頃までには、建設から50年以上が経過した施設の割合が急増することが予測されています。しかし、技能労働者の高齢化と引退が進行しており、新たな担い手の確保が困難な状況です。そこで、業務効率化やコスト削減を目的としたDXの導入が進められており、技術の自動化や建設プロセスの効率化が今後ますます重要となります。物流業界でも同様に、人手不足が深刻化しています。宅配便の需要は飛躍的に増加している一方で、ドライバーの高齢化が進み、現役ドライバーの減少が続いているためです。さらに、2024年から施行されている働き方改革関連法による「時間外労働の上限規制」は、物流業界に新たな課題をもたらしました。これによりドライバーの労働時間が制限され、企業は早急な人材確保が求められます。これらの業界では技術革新と自動化が進展していますが、人間の経験と技術が不可欠な作業も多く、労働力不足の解決には教育と技術継承が重要です。

IT業界

IT業界では、とくに正社員の人手不足が深刻な課題となっています。ITに強い高度な技術をもつ人材は多くの企業から求められ、その市場価値は非常に高いため、人材の確保が困難です。この人材不足により、プロジェクトの遅延や品質の低下が懸念されるほか、業界内でのイノベーションの進行が停滞するリスクも考えられます。DXを推進する企業の増加にともない、IT関連の需要は急激に伸びていますが、それに見合うだけの人材が足りていません。従来のシステム開発や保守運用を行うIT人材ではなく、AIやクラウド技術、データサイエンスなど最先端の技術を扱える人材の需要が増加しています。こうした人材不足と、それにともなう採用コストの増大や人件費の高騰は、2030年に向けてさらに深刻化することが予想されます。これらの課題を解決するにあたっては、外部の人材を活用する、既存の社員に対する研修やスキル向上の支援を強化するなど、多様な対策が必要です。企業がIT人材を確保し、業界全体の発展を続けるためには、採用や定着率向上に向けた戦略的なアプローチが不可欠です。

まとめ

少子高齢化や出生率の低下にともない、今後も労働人口の減少が予測されます。限られた人員で業務を円滑に行うためには、企業の人事部は従業員の待遇の見直しやワークライフバランスの維持の支援、DX化などさまざまな対策を講じる必要があります。セラクでは、統合人事システム「COMPANY(R)」の導入・運用に際して、仕様書やマニュアル作成の支援・既存人事パッケージからの切り替えなど、さまざまなサポートを行っております。「人事業務をDX化したいが、どうしたらよいのかわからない」「既存の勤怠管理システムから新しいシステムに変更したい」などのお悩みがございましたら、ぜひセラクにご相談ください。

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