はじめに
2025年4月、育児・介護休業法の改正が施行されます。仕事と家庭の両立を支援するための重要な措置として注目されています。本記事では、改正内容や対応方法についてご理解を深めたい経営層や人事担当者に向けて、変更点の詳細や具体的な対応策だけでなく、企業が得られるメリットや非対応時のリスク、両立支援等助成金についてもわかりやすく解説します。
目次
育児・介護休業法が改正される背景
少子高齢化の進行にともない、仕事と育児・介護の両立を支援する取り組みの重要性がさらに増しています。育児・介護の負担を抱える労働者が増加し、これらの責務を果たしながら仕事を続けることが困難な状況が続いています。今回の法改正には、こうした労働者が安心して仕事と家庭生活を両立できるよう、より柔軟な働き方を可能にするための措置が含まれています。
【2025年4月施行】育児・介護休業法における3つの改正ポイント
今回の育児・介護休業法の改正のポイントは、以下の3つです。
1. 仕事と育児の両立支援について
2. 介護離職を防ぐための両立支援について
3. 育児休業の取得状況公表や次世代育成支援対策推進法について
それぞれ解説します。
1. 仕事と育児の両立支援について
まず、仕事と育児の両立支援に関する主な改正内容について解説します。
働き方の柔軟化措置と個別の周知・意向確認の義務付け
3歳以上で小学校就学前の子どもを育てる労働者に対し、事業主は柔軟な働き方を実現するための措置を講じ、選択肢を提供することが求められます。具体的には、以下の選択肢から2つ以上を選び実施する必要があります。
・始業時間の変更:労働者が希望する時間帯に働けるように、始業時間や終業時間を調整する
・テレワーク(10日/月):1か月に10日以上のテレワークを許可し、労働者が自宅で業務を行えるように調整する
・短時間勤務:労働者がフルタイムではなく、短時間での勤務を可能にする
・新たな休暇制度の付与(10日/年):育児に必要な新しい休暇制度を設け、労働者が安心して休暇を取得できるように配慮する
・働きながら子どもを育てやすくするための措置:保育施設の設置や運営など、育児を支援するための具体的な措置を講じる
また、子が3歳になるまでに、事業主は労働者に対してこれらの措置の周知と、意向確認のための面談などを行うことが義務付けられています。さらに、最初の利用後も定期的に面談を行うことが推奨されています。
所定外労働における制限対象の拡大
現行法では、3歳になるまでの子どもを育てる労働者が所定外労働(残業)の制限対象となっていますが、改正後は小学校就学前の子どもを育てる労働者も対象となりました。これにより、より多くの労働者が残業免除の対象となり、育児に必要な時間や労力を確保しやすくなります。
子の看護休暇の範囲拡大
看護休暇とは、労働者の子どもが病気や怪我をした際に、1年で5日間(子どもが2人以上の場合は10日間)まで取得できる休暇制度です。現行法では、この看護休暇の対象が小学校就学前の子どもに限られていますが、今回の改正により、小学3年生までの子どもを育てる労働者も対象となります。また、病気や怪我だけでなく、学級閉鎖や入園(入学)式や卒園式への参加の際にも看護休暇を取得可能です。さらに、勤続6か月未満の労働者も看護休暇の対象となったため、入社直後の労働者もこの制度を利用できます。
3歳未満の子を育てる労働者に対する事業者の努力義務にテレワークを追加
3歳未満の子どもを育てる労働者が育児休暇を取得していない場合、テレワークの措置を講じることが事業主の努力義務に追加されました。可能な限りテレワークを導入することで、育児中の労働者の負担を軽減し、離職率の低下や労働者の満足度向上が期待されます。なお、事業の性質上テレワークが困難な場合もあるため、努力義務にとどまり、罰則は設けられていません。
仕事と育児の両立に向けた意向聴取と配慮の義務化
労働者が妊娠や出産などを申し出た際、事業主は仕事と育児の両立について労働者の意向を聴取し、その意向に配慮することが義務付けられました。具体的な配慮措置は以下の通りです。
職場の配置:妊娠中の労働者が負担なく働けるよう、職場の配置を見直す
業務量の調整:育児中の労働者が無理なく働けるよう、業務量を調整する
労働条件の見直し:勤務時間の短縮やフレックス制度の導入などで、労働条件を見直す
これらの措置により、育児中の労働者が仕事と家庭のバランスを取りやすくなり、安心して働ける環境が整います。事業主が労働者の意向に配慮し、適切な対応をすることで、従業員の満足度やモチベーションが向上し、企業全体の生産性向上にも寄与します。
2. 介護離職を防ぐための両立支援について
続いて、介護離職を防ぐための両立支援に関する改正内容について解説します。
介護の両立支援制度による義務化
介護休業の制度や両立支援制度に基づき、事業主には以下の義務が課されます。
・両立支援制度に関する情報の個別周知と意向の確認:介護が必要な状況に直面した労働者から申し出があった場合、介護休業や両立支援制度について個別に周知し、労働者の意向を確認する
・両立支援制度や介護休業制度について早期の周知:40歳に達した労働者に対して、両立支援制度や介護休業制度について周知する。また、介護保険制度の周知も望ましい
・雇用環境の整備:介護に関する研修の実施や、介護に関する問題や疑問に対応するための相談窓口を設置する
介護休暇の対象範囲を拡大
介護休暇は、要介護状態にある家族を介護・世話するために取得できる制度で、年5日間(対象家族が2人以上の場合は10日間)まで利用可能です。今回の改正により、本制度の対象範囲が拡大されます。これまでは、労使協定に基づき勤続6か月未満の労働者は介護休暇を取得できませんでしたが、この制限が撤廃されます。
家族を介護する労働者に対する事業者の努力義務にテレワークを追加
要介護状態にある家族を介護している労働者が介護休業を取得していない場合、事業主にはテレワークの導入を検討する努力義務が追加されました。介護中の労働者が仕事と両立しやすくなるよう、柔軟な働き方を提供することを目的としています。なお、育児休業と同様、この措置は努力義務であるため、事業主に対する罰則は設けられていません。
3. 育児休業の取得状況公表や次世代育成支援対策推進法について
最後に、育児休業の取得状況の公表や次世代育成支援対策推進法に関する改正内容について解説します。
育休取得状況の公表義務の拡大
これまでは、常時雇用する労働者が1,000人を超える事業主にのみ義務付けられていた育休取得状況の公表が、改正により、常時雇用する労働者が300人を超える事業主にまで拡大されます。公表する内容は、公表前事業年度における育児休業等の取得割合、もしくは育児休業等と育児目的休暇の取得割合のいずれかです。この措置によって、中小企業も含めた育児休業の取得状況がより透明化されます。企業ごとの取り組みの違いが明確になり、育児休業の取得促進や育児と仕事の両立支援の強化が期待されます。
行動計画に育休取得状況等の把握と数値目標の設定が義務化
次世代育成支援対策推進法は、次世代の子どもたちが健やかに成長できる社会を築くために、基本理念や行動計画の策定指針を定めた法律です。この次世代育成支援対策推進法も改正され、従業員数が100人を超える事業主には、一般事業主行動計画の策定時に以下の2つが義務付けられました。
・計画策定時における育児休業の取得状況や労働時間の状況の把握
・育児休業の取得状況や労働時間の状況に関する数値目標の設定
育児休業の取得状況は、省令で男性の育児休業等取得率に、労働時間の状況は、フルタイムで働く労働者1人当たりの各月の時間外労働・休日労働の合計時間となる予定です。なお、従業員が100人以下の事業主については努力義務にとどまります。
次世代育成支援対策推進法の10年間延長
次世代育成支援対策推進法は2025年3月31日に失効する予定でしたが、今回の改正により2035年3月31日まで延長されました。期限の延長にともない、厚生労働大臣が子育てサポート企業として認定する「くるみん」認定制度も一部基準を見直して継続されます。この認定制度は、企業が育児支援に積極的に取り組む姿勢を示すものであり、認定を受けた企業は社会的な評価が高まり、企業イメージの向上にもつながります。
育児・介護休業法の改正による企業側のメリット
ここでは、育児・介護休業法の改正が企業にもたらす具体的なメリットについて解説します。
企業のイメージ向上につながる
育児・介護休業法の改正に積極的に取り組む企業は、社員からも魅力的に映り、企業イメージの向上につながりやすいです。とくに柔軟な働き方を重視する若年層にとって、テレワークの導入や短時間勤務制度の充実、育児休業の取得促進など、社員が働きやすい環境を提供する企業は、より魅力的な職場として認識される傾向があります。また、育児・介護支援の取り組みは、企業の社会的責任(CSR)活動の一環としても評価され、優秀な人材の確保や離職率の低下、企業全体の競争力強化に貢献します。
離職率の低下が期待できる
少子高齢化で労働力不足が進む中、従業員が安心して働ける環境を整備することは重要です。育児・介護休業法の改正により、テレワークや短時間勤務制度の充実、育児・介護休暇の取得促進などが推進されることで、育児や介護の負担を抱える社員も離職せずに働き続けやすくなります。
社員の生産性やモチベーションが向上する
仕事と育児・介護を両立できる環境が整うことで、社員のモチベーションが高まり、仕事への集中力の向上にもつながりやすいです。育児や介護に必要な時間が確保できることでストレスが軽減され、効率よく業務に取り組めるため、生産性向上にも期待できます。また、こうした取り組みは女性社員のキャリア支援にもよい影響を与え、企業全体のパフォーマンス向上と成長の基盤となるだけでなく、経営面においても、社員の生産性が向上することで、企業全体のパフォーマンスが向上し、成長と安定に寄与します。
採用力を強化できる
近年、就職・転職市場は売り手市場であり、企業にとって採用難の時代が続いています。とくに中小企業は、大手企業に比べて認知度が低い、採用活動に十分なリソースを割けないといった課題があり、採用活動に苦戦する企業が多いのが現状です。しかし、育児・介護休業法の改正にともない、休暇制度や柔軟な働き方が整備されることで、求職者にとって魅力的な職場環境が構築され、企業の採用力が強化されます。テレワークの導入や育児・介護休暇の拡充、短時間勤務制度などの施策により、働きやすい環境が整備され、中小企業にとっても有効な採用アピールとなります。
育児・介護休業法に違反するとどうなる?
育児・介護休業法に違反した場合、企業は厚生労働大臣から報告を求められるほか、助言・指導・勧告を受けます。勧告に従わなかった場合、企業名が公表されます。企業名が公表されることは社会的な信頼を失う大きなリスクとなり、ビジネス上の影響も避けられません。また、求められた報告を怠る、虚偽の報告をするといった場合には、20万円以下の過料が科されます。
両立支援等助成金の活用も検討しよう
ここでは、両立支援等助成金の概要とその種類について解説します。
両立支援等助成金の概要
育児・介護休業法の改正により就業環境を整備したいものの、両立支援が困難だと感じる事業主向けに「両立支援等助成金」が設けられています。この助成金は、企業が育児や介護と仕事の両立を支援するための具体的な取り組みに対して、経済的な支援を提供するものです。たとえば、テレワークの導入や育児・介護休暇の取得促進、短時間勤務制度の充実といった、柔軟な働き方を実現するための取り組みに助成金が支給されます。2023年6月26日からは電子申請にも対応し、申請手続きが簡便化されたため、企業はより効率的に助成金の活用が可能です。
両立支援等助成金の種類
両立支援等助成金には、2024年度現在、以下の6つのコースがあります
・出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)
・介護離職防止支援コース
・育児休業等支援コース
・育休中等業務代替支援コース
・柔軟な働き方選択制度等支援コース(新設)
・不妊治療両立支援コース
とくに注目すべきは、新たに追加された「柔軟な働き方選択制度等支援コース」です。このコースでは「柔軟な働き方選択制度等」に含まれる2つ以上の制度を導入し、制度利用者支援の取り組みを行ったうえで、労働者がそのうち1つの制度を利用した場合に助成金が支給されます。対象者が制度を利用した場合、1事業主あたり1年度に5人まで、2つの制度導入で20万円、3つ以上で25万円が支給されます。両立支援等助成金を活用することで、企業は従業員が育児や介護と仕事を両立しやすい環境を整え、従業員のモチベーションや生産性の向上を図れます。
まとめ
育児・介護休業法の改正により、支援対象の拡大やテレワークや勤務時間の短縮などの配慮の義務化などを企業側が行うことになりました。育児や介護に対する支援や配慮を行うことで、社員の離職率の低下や採用力の強化、自社のイメージ向上などさまざまなメリットが期待できますが、その分勤怠管理が難しいと感じる企業も多いです。そのような場合は、法令改正にも対応している勤怠管理システムの導入がオススメです。セラクグループは統合人事ERP『COMPANY(R)』の導入・定着サポートから、運用人材の継続的な派遣まで、さまざまな支援を行っています。育児・介護休業法の改正によって、勤怠管理にお悩みの方はぜひご相談ください。